東京大学大学院総合文化研究科の小塩靖崇特任講師と工藤和俊教授は、国内の競技チームを 対象に、引退アスリートがファシリテーターとなって実施するメンタルヘルス教育プログラムを評価した。競技選手を対象に90分間の教育セッションを実施し、メンタルヘルス・リテラシー、心理的安全性、援助希求意図を実施前、直後、2か月後にそれぞれ測定。その結果、メンタルヘルス・リテラシーと心理的安全性は実施直後に実施前より高い値を示し、2か月後にも実施前より高い値となった。一方、援助希求意図には明確な統計的変化は確認されなかった。
小塩特任講師らは、「この研究は、選手個人の知識だけでなく、「相談や開示をしやすい環境」にも着目したスポーツ現場でのメンタルヘルス教育・支援の実装を検討するための基礎的知見となる」としている。
◇背景:競技アスリートも不安、抑うつ、睡眠の問題などを経験するが、スポーツ特有の規範や、選 考・評価への懸念、スティグマなどが相談を妨げることがある。そこで研究では、メンタルヘルス・リテラシーに加え、困りごとや弱さを安心して話せる「心理的安全性」に着目した。
◇研究方法:国内のバドミントン、バレーボールの2競技チームを対象に、引退アスリートがファシリテー ターとなる90分間の教育セッションを実施した。講師は事前にIOC「Mental Health in Elite Athletes Toolkit(日本語版)」を用いて学習。教材・進行台本の確認、リハーサ ル、ファシリテーターとしての役割や、相談を受けた際の対応を確認。セッションは メンタルヘルス専門職が監修した。
調査は実施前、実施直後、2か月後に行い、メンタル ヘルス・リテラシー、心理的安全性、援助希求意図を評価した。52名が実施前・直後の 調査に回答し、34名について2か月後までのデータがそろった。
◇主な結果:2か月後まで回答がそろった34名を対象とした解析では、メンタルヘルス・リテラシーと心理的安全性はいずれも実施直後に上昇し、2か月後にも実施前より高い値を示した。また、実施前の心理的負担(APSQ)により高群・低群に分けた探索的解析も行ったが、変化のパターンに統計的に明確な群間差は確認されなかった。
一方、相談に前向きな回答(援助希求意図)の割合は41%から53%、2か月後50%と推移たが、明確な統計的変化は認められなかった。