救急搬送の約6割を高齢者が占める現在、急病やけがの多くは時間との勝負であり、通報から病院到着までの時間を短くすることは、患者の予後の改善と救急体制の効率化の両面で重要となる。
ダイヤ高齢者社会研究財団と広島大学大学院の研究グループでは、2016から2024年に東広島市消防局の救急車で自宅から搬送された高齢者の救急搬送記録を解析し、現場滞在時間がトイレ・浴室・台所といった狭く仕切られた場所で長く、さらに住居の上層階ほど長い傾向であることを解析した。
この結果は、自宅内のどこで救急事案が起きたかによって現場滞在時間に差があり、住まいの構造が救急活動の効率に関わる可能性を示すものとして、「BMC Emergency Medicine」に2026年7月24日付で早期公開された。
救急車が現場に到着してから出発するまでの時間である現場滞在時間は、全救急搬送時間(通報から病院到着までの時間)の中で、消防署と現場、そして病院との距離に依存する現場到着所要時間や搬送時間と違い、短縮可能な時間として重視されてきた。今回の分析でも、現場滞在時間が長い事案ほど、全救急搬送時間が長くなっていた。
しかし、年齢・重症度・時間帯といった変えにくい要因との関連が報告され、住まいの構造という「変えることができる要因」はこれまで検討されてこなかった。
今回の分析では、居間と比較して、トイレ(調整済み平均比1.08)、浴室(1.09)、台所(1.06)で発生した事案で現場滞在時間が長かった。
また、1階居住者に比較し、2階(調整済み平均比1.10)、3階(1.18)、4階(1.25)、5階(1.20)、6階以上(1.31)と、おおむね上階ほど現場滞在時間が長かった。
集合住宅に居住する高齢者は、この10年で25.3%から29.9%へ増加していることから、今後の社会全体での救急搬送時間への影響が危惧される。
自宅の上階や、トイレなど狭く仕切られた場所において救急隊の現場滞在時間が長くなることは、1件あたりの差は数%と大きくはないものの、救急出動件数が増え続ける現状の中では、無視できない意味を持つ。 今回の横断研究は因果関係を示すものではないが、住まいの構造が救急活動に関わりうることを示した点で新しく、建築基準やバリアフリー施策、救急体制の検討における基礎資料となることが期待される。