東北大学大学院歯学研究科の鈴木敏彦准教授らの研究グループは、江戸時代に日本で独自に発展した木製の義歯(入れ歯)が使用者の顎の形に精密に合わせて製作されていたことを、世界に先駆けて数値的に証明した。
また、義歯の内面と顎骨の形状を三次元解析で比較することで、多数の遺骨の中から義歯の持ち主を統計的に特定できることを実証した。
この手法は、顎骨との形状比較を行うことで義歯使用者を特定するなど、現代の義歯を用いた個人識別への応用も期待できる。
木床義歯は、日本で独自に発展した歯科技術による木製の入れ歯。江戸時代の木床義歯は現代の総義歯と類似した形状をすでに獲得しており、審美目的だけでなく食事が可能な適合性を有していたと推定されているが、これまで科学的な評価は行われていなかった。
江戸時代の木床総義歯で特筆すべきなのは、現代の総義歯と同様に口腔内の粘膜に接する広い義歯床(義歯の土台)を備えていたこと。この構造から、西洋において義歯を吸着させて安定させる技術の原理が体系的に記述される以前から、すでに日本で用いられていた可能性が指摘されている。
同研究グループは、江戸時代の湖雲寺跡遺跡(東京都)から出土した遺骨と、被葬者が用いていた木床義歯との形状について三次元解析を行い、粘膜を介さずに義歯と骨との直接的な形状比較によって義歯の使用者本人と他者の判別が可能であることを実証した。
今回の研究成果は、江戸時代の木床義歯が高精度に上顎骨に適合して製作されていたことを定量的に示す世界に先駆けた報告であり、考古学的遺骨における義歯を用いた個人識別の可能性を初めて科学的に示したと言える。
さらに、義歯を通じた過去の人々の歯科技術・口腔保健・社会的背景の解明に向けた研究の発展が期待できる。
また、今回の手法は、高齢者の孤独死事案を始めとする現代の身元不明遺体における義歯を活用した法医学的個人識別への応用など、新たな鑑定手法の確立への寄与が見込まれる。
この研究成果は、学術誌International Journal of Osteoarchaeologyに8月10日付で掲載された。
