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東大文学部に「大江健三郎」文庫発足 ノーベル賞作家のアーカイブ設立

東京大学大学院人文社会系研究科・文学部は、ノーベル文学賞受賞者で、今年3月逝去した大江健三郎氏から自筆原稿などの資料の寄託を受け、『大江健三郎文庫』を正式に発足することになった。

2021年1月、大江健三郎氏と大西克也研究科長(当時)の間で寄託に関する契約を締結した後、資料の整備と並行して、資料の利用について双方で検討を重ね、今年7月4日に大江健三郎氏の著作権継承者と納富信留研究科長との間で寄託資料の利用に関する契約を締結した。

寄託資料は、大江氏の自筆原稿・校正刷など1万8千枚を超えており、このような規模で現代作家のデジタルアーカイブが構築されるのは国内でも稀有なことといえる。

東大文学部では、今年9月1日に大江健三郎文庫発足記念式典を開催し、同文庫を正式にオープンする。研究者に対して、1万8千枚におよぶデジタルアーカイブ、3500点を超える資料の閲覧の場を提供する。さらに、ホームページ(https://oe.l.u-tokyo.ac.jp)やオープンセミナーを通して、研究成果を社会に発信する予定。

大江文庫は、主として、1)「自筆原稿デジタルアーカイブ」、2)「関連資料コレクション」、3)「書誌情報データベース」の三つの要素から構成される。

1) 「自筆原稿デジタルアーカイブ」では、自筆原稿・校正刷など1万8千枚のデータが閲覧できるようになっている。同アーカイブの特徴は、第一に、「死者の奢り」(1957年)から『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』(2013年)に至るすべての年代にわたり、かつ小説に加えて『沖縄ノート』(1970年)などの評論作品も収録している点。

第二に、自筆原稿と校正刷を有する作品が複数あり、草稿から決定稿にいたるプロセスをたどることができる点(例えば、『水死』(2009年)は、自筆原稿、初校・再校・三校の校正刷の四つのヴァージョンがある)。

第三に『言い難き嘆きもて』(2001年)、『鎖国してはならない』(同)の「編集プラン」など、原稿以外の資料も閲覧可能である点が挙げられる。

2)「関連資料コレクション」の主要な部分を構成するのは、森昭夫氏からの寄贈資料。2021年7月、東大文学部は、『大江健三郎書誌稿』(私家版)の編者で、大江研究者でもある森昭夫氏から、大江氏の著書、関連図書、雑誌等の寄贈を受けた。大江氏の著作の初版本をはじめ、大江氏の作品が掲載されている雑誌がほぼすべて揃っているとともに、研究書も網羅的に収集されている。

大江氏の活動の時期は数十年にわたることから、戦後日本文学の貴重なアーカイブとしての側面も有している(今年7月現在、図書は1360点、雑誌類は2528点)。また森氏の寄贈図書以外にも、翻訳、外国語の研究書なども収集し、世界文学としての大江研究の基礎資料の構築にも力を注いでいる。

3)「書誌情報データベース」は、大江健三郎氏の著作、関連文献について整備された情報を検索・閲覧するもの。同データベースは、森氏から提供された『大江健三郎書誌稿』のデータを基礎として、大向一輝准教授が構築した。同データベースでは著書、初出となる雑誌の掲載情報と自筆原稿に関する情報を組み合わせ、多様なアクセス方法を提供する画期的なものとなっている。また、「自筆原稿デジタルアーカブ」と連携し、文庫内の端末ではデータベースの検索結果から直接自筆原稿を閲覧することが可能。