がん研究会の北嶋俊輔研究員を中心とするグループは、がん細胞の細胞質内のDNAを認識し抗ウイルス/抗腫瘍免疫を誘導する「STING経路」が活性化することで細胞質内のDNA分解酵素「TREX1」が増加することを明らかにした。これの不活性化が新規治療法として有望と指摘している。
非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が保険適応となり、一部の肺がん患者にとって、有効性が高い治療法となっている。一方で、ICIが有効な症例は全体の2~3割で、有効性向上と抵抗性克服が課題だ。STING経路の再活性化が、ICI抵抗性を越える鍵とされている。
研究ではSTING経路に対する内因性の阻害(Negative Feedback)経路に着目。経路を活性化させ、Negative Feedback因子を抽出した。
その結果、活性化によって細胞質内のTREX1の遺伝子発現が上昇することが判明した。
そこで、がん細胞でTREX1を不活性化させると、細胞質内へのDNAの蓄積とSTING経路の活性化に伴い、がん細胞自身から免疫細胞の活性化に関わる因子が分泌されることを明らかにした。
さらにヒトサンプルを対象としたデータベース解析において、TREX1は正常組織と比較して多くのがん組織において発現が高いことが分かっている。
北嶋研究員らは「がん細胞は抗腫瘍免疫応答から回避するためにTREX1を利用することが明らかになった」とし「TREX1の不活性化はがん細胞の免疫原性を亢進させ、免疫チェックポイント阻害薬やSTING作動薬、免疫細胞療法などの奏功を改善するための新規治療法として有望である」と指摘している。