福井大学の青木耕史教授らは、β-カテニンがNELF複合体やPAF1複合体などを介してRNA Pol IIを活性化することにより、がん幹細胞関連遺伝子群の発現を誘導することなどを明らかにした。PAF1複合体の下流分子であるCDK12を阻害することでがん幹細胞性を抑制することにも成功している。
これまでβ-カテニンによるがん幹細胞性関連遺伝子群の発現誘導機構は不明であった。
青木教授らは実験により、β-カテニンたんぱく質ががん幹細胞遺伝子の遺伝子発現が開始される部位(転写開始点)の近傍に結合し、NELF複合体やPAF1複合体などを制御することでRNA Pol II の活性化複合体の形成を促進することなどを明らかにした。
その結果、β-カテニンたんぱく質はがん幹細胞関連遺伝子群の発現を誘導することが分かった。つまり、研究で発見した遺伝子発現を制御する転写機序が大腸がんの開始、がん細胞性の誘発及びがん幹細胞性の維持のプロセスであると考えられる。
さらにPAF1複合体や関連の複合体が大腸癌のがん幹細胞性の誘発と維持に働くことが判明した。PAF1複合体がRNA Pol IIを活性化するときにCDK12などのキナーゼをRNA Pol II複合体に動員するため、CDK12を抑制することで大腸がんのがん幹細胞性を抑制できると考察した。
そこで動物モデルなどを用いた実験を行ったところ、CDK12阻害薬に暴露した大腸がん細胞は腫瘍を形成する能力が失われていることを突き止めている。
青木教授らは「これらの結果は、大腸がんの治療標的としてPAF1複合体やCDK12が候補となることを示しており治療に応用されることが期待される」としている。
※ 掲載時に「β-カテニン」が「β-カイニン」となっておりました。関係各位にご迷惑をおかけしたことをお詫びして、修正掲載します。