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嫌悪感を伝えるのはドーパミンでない!? TMiMSがグリア細胞による感覚情報の伝達と入力制御機構発見

東京都医学総合研究所(TMiMS)の宮下知之主席研究員らの研究グループは、嫌悪感覚情報が神経と脳を構成する「グリア細胞」により記憶中枢に伝達されることを発見した。研究成果は22日に米科学雑誌「サイエンス」にオンライン掲載されている。

グリア細胞には情報伝達機構の維持管理と情報伝達の調節修飾という2つの重要な役割が知られている。研究グループはこれらに加えて、グリア細胞が神経細胞同様、情報伝達の本体として働き、嫌悪学習の成立に必要な嫌悪感を伝達するといった第3の役割を持つことをショウジョウバエで初めて明らかにした。

ショウジョウバエが匂い学習を行うと、匂い感覚情報と嫌悪感がキノコ体という脳の記憶中枢の神経細胞に入力して、嫌な匂いの記憶情報が形成される。研究グループはその情報が神経細胞でなくキノコ体を取り囲むグリア細胞から放出される「グルタミン酸」により伝達されることを発見した。

さらに嫌悪感覚情報は全てのキノコ体に入力するわけでなく、グルタミン酸の1つ「NMDA受容体」の働きで匂い刺激に応答したキノコ体にのみ選択的にインプットされることが分かった。

これまでの学習モデルでは、嫌悪感覚情報はドーパミンによりキノコ体に伝わると考えられていた。だが、研究から嫌悪刺激により放出されるドーパミンもグリア細胞から放出されたグルタミン酸によりドーパミン神経細胞が活性化されて起こるもので、放出されたドーパミンは不必要な学習を抑制することも判明している。

研究チームは「各種精神神経疾患とグリア細胞の機能障害との関わりが示唆されている」と指摘。「この研究を契機としてグリア細胞による情報伝達機構がさらに解明されることで、精神神経疾患とグリア細胞との新たな関わりが明らかになり治療の開発へとつながるとよい」としている。