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「カーニアン多雨事象」200万年前に発生 九大研究Gが明らかに

九州大学の冨松由希助教らの共同研究グループは、大規模な火山活動が引き金となり降雨量が増加する「カーニアン多雨事象」が約200万年前に起こったことを明らかにした。

研究グループは、カーニアン多雨事象の原因と海洋生物に与えた影響を解明するため、日本の大分県佐伯市、京都府南丹市、岐阜県山県市などの5地域のカーニアンに堆積した地層を対象に、太平洋の深海に堆積したチャートという岩石を研究した。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)に設置されている分析装置を用いた解析の結果、地球内部のマントル物質に特有の低い※「オスミウム同位体比」が、全ての地域の前期カーニアンのチャートから検出された。

これは大規模火山活動に由来するオスミウムが海洋中に大量に供給されたことを示す。全ての研究地域から火山活動の痕跡が見つかったことは、太平洋の広域で巨大火成岩岩石区を形成した大規模な火山活動が起きていたこと意味する。

さらに研究グループは、研究地域の地層から、火山活動の末期に深海底が無酸素化した証拠を、貧酸素から無酸素環境で堆積物に濃集しやすいバナジウムやウランなどの元素濃度の変化から明らかにした。

この海洋無酸素化は、当時の海洋の浅海域にまで広がっていた可能性がある。またチャートから産出する化石の研究からは、無酸素化と同時期にコノドントの多様性が著しく低下し、前期カーニアンに生息していたほとんどの種が絶滅したことが明らかになった。これらの結果から、大規模火山活動の末期に起こった海洋の無酸素化が、コノドントを含む海洋生物を絶滅に導いた可能性が示されている。

研究グループは今後について「無酸素化がなぜ起こったかについては、十分に明らかになっていない。また、放散虫のように海洋無酸素化の影響を受けず、多様性の増加につながった生物も確認されています。今後はこれらの問題について研究を進める予定」と説明している。

※ オスミニウム同位体比:オスミウム(Os)は原子番号76番の白金族元素であり、184、186、187、188、189、190、192の7つの同位体(原子番号は同じであるが、質量数の異なる元素のこと)が安定に存在する。研究で分析したオスミウム同位体比は、オスミウム188に対するオスミウム187の比のこと(187Os/188Os)。マントル物質中のオスミウム同位体比(187Os/188Os = 0.12)は、地球表層の大陸地殻(187Os/188Os = 1.4)に比べて1桁低い値を示す