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気象衛星で植物の熱中症を診断~温度日変化の波形が水分不足のサインを捉える【千葉大】

千葉大学国際高等研究基幹/環境リモートセンシング研究センター山本雄平特任助教、市井 和仁教授らの国際共同研究グループは、気象衛星ひまわり8号から観測された地表面温度の日変化情報を活用することで、従来手法よりも詳細に植生の乾燥状態を検出できることを明らかにした。

この手法により、異常気象によって植物が受ける高温/乾燥ストレスの検出や、農業や林業でのより詳細なリスク管理、森林火災の早期発見が可能となる。また、ひまわり8号と同等の観測スペックをもつ他国の気象衛星にも展開することで、急速な環境変動をグローバルで把握できるようになり、気候変動対策や環境保全への貢献も期待される。

■研究背景 地球温暖化の進行に伴い、熱波や干ばつなどの異常気象の激甚化・頻発化が懸念されている。わが国でも2018年や2022年夏の記録的な猛暑は記憶に新しいところだが、この年と同程度の猛暑が今後頻繁化していくことが予測されている。

異常気象による植生環境への被害は、農作物の品質・収量低下やCO2吸収量の低下など、社会的にも気候的にも非常に深刻な問題となっている。

植生環境のモニタリングには、一般的に極軌道衛星で観測された分光植生指標が利用されてきた。分光植生指標は、端的に言えば肉眼で捉えられる色付きの度合いや植物の量を把握できる。ただし、植物が変色や枯死に至る前段階の、高温や乾燥などの環境ストレスを受けた状態を検出することは困難。

また、極軌道衛星は南極と北極を通過するように地球を周回する。このため、同一地域の分光植生指標を観測できる実質の頻度は数日に一回であり、急速な環境変化を捉えられないという課題もある。

■研究手法 気象衛星「ひまわり8号」は高頻度観測を得意とする衛星であり、7号からの観測機能の向上によって、晴天日の地表面温度を10分ごとに観測できるようになった。一般的に地表面は乾燥すると温度変化しやすくなり、日変化のピークは早まる。また、植物は乾燥によるストレスを受けると気孔を閉じて蒸散速度を下げるため、更に温度が上昇しやすくなる。これらの関係に着目して地表面温度の日変化情報を活用できれば、分光植生指標とは異なる新たな視点での植生モニタリングが期待できる。

研究では、日変化情報を日最高温度・日較差・ピーク時刻・冷却時定数などで表した。これらの情報は、ひまわり8号で観測された晴天日の地表面温度をもとに、DTC(日周温度サイクル)モデルという半経験モデルで推定されます。衛星から観測された地表面温度には、雲の混入によるノイズや一時的なデータ欠損が含まれることがよくあるが、DTCモデルに当てはめることでこれらを補間できる。

2018年の夏に日本周辺で発生した猛暑を対象に、どの日変化情報が乾燥状態の検出に有用であるかを、土壌水分量や潜熱量、光合成量、分光植生指標との関係に着目して調べた。

■ 主な研究成果

○日最高温度と日最低温度、日較差は安定的に推定できる一方で、ピーク時刻や冷却時定数は地形斜面の向きや観測角度による影響を受けやすく、複雑地形の多い日本での適用は困難であることが分かった。

○猛暑による日較差の増大は土壌水分量や潜熱量の低下に対応し、分光植生指数が低下した地域では日最高温度の上昇がみられた。日較差と日最高温度を活用することで、分光植生指標で判別が困難なレベルの乾燥シグナル(大規模な枯渇や変色には至っていないけれど、乾燥化が起きている状態)を検出できることが示された。

○この手法を気候条件の異なる地域に拡張したところ、特に半乾燥地域で、日最高温度と日較差の増大に応じて光合成量が低下する傾向もみられた。植物は日中の高温・乾燥環境において光合成活動を休止する(昼寝現象)。この現象を衛星から広範囲に検出することは困難だったが、本成果によって、新たに検出できる可能性が示された。