官庁通信デジタル

KANCHO TSUSHIN DIGITAL

官庁通信デジタル

BUNKYO DIGITAL
上智大教授がEUの移民・難民政策の構造的変化を解明 官僚的・専門的な合意形成から国家レベルの首脳間外交に意思決定の比重が移動(第18959号)

上智大学法学部国際関係法学科の岡部みどり教授は、欧州連合(EU)の移民・難民政策が、司法・内務官僚主導による調整から、各国首脳間の政治的な交渉へと重心を移し、EUの「域内外交」の主要課題へと変化したプロセスを明らかにした。①2024年に成立した「移住と庇護新協定」の成立過程を「決定の場・論理・正統性」から分析し、政策決定の中心が、司法内務官僚のネットワークから各国首脳が集まる欧州理事会へと移ったことを解明した。また、加盟各国の譲歩や見返りを交換する「取引型の外交」によって合意が形づくられたこと、政策の「正しさ」の根拠 が法的な整合性から「政治的に合意できるか」へと移ったことを提示。長期的には移民・難民政策の政治化や加盟国間交渉への依存が強まる可能性を指摘した。

EUでは、難民をどの国が受け入れ審査を行うかをめぐり、ギリシャやイタリアなど国境に位置する国に負担が偏 るという課題が長く続いてきた。この分野の政策は、各国の出入国管理や司法・内務を所管する官僚のネットワークによって、技術的な調整が図られてきた。

しかし、2015年に多数の難民が流入した「欧州難民危機」を機に、加盟国間の対立が深まり、制度改革の試みは10年近く行き詰まっていた。

2024年になって、大規模な制度改革「移民・庇護に関する新たな協定」が成立し、発効した。

岡部教授は、行き詰まっていた制度改革が、なぜ2024年に大規模な合意が成立しえ たのかという問いに着目。新協定に至る交渉を「決定の場」「決定の論理」「正統性(決定が正しいと認められる根拠)」という三つの観点から分析した。

分析の結果、主たる決定の場が司法・内務官僚のネットワークから各国首脳が集まる欧州理事会へと移ったこと、決定を動かす論理が、譲歩や見返りを交換する「取引型の外交」へと変わったこと、さらに「法的な整合性」よりも「政治的に合意できるかどうか」が決定を支える「正しさの根拠」に変わりつつあることがわかった。

岡部教授は、これらの変化を通じて、移民・難民政策がもはや官僚による技術的な調整の領域ではなく、加盟各国の首脳が担う「域内外交」の主要課題へと構造的に転換していることを明らかにした。

この研究成果は、今年5月17日に国際学術誌「Journal of Common Market Studies」にオンライン掲載された。