東京科学大学の大竹尚登・理事長
「世界トップクラスの科学系総合大学を目指したい」―。東京科学大学の大竹尚登・理事長はこのように力を込めた。話によれば、統合の苦労もある一方で、積極的に行動してくれる若者の姿が刺激になるという。新たな大学をけん引する理事長を直撃した。
■統合の苦労、従業員の負担を軽減
「やっぱり統合は大変」。記者が尋ねると、統合前の東京工業大学と東京医科歯科大学は同じ国立大学といえど異なる大学であり、情報や人事、財務システムの違いなどから苦労することも多いと教えてくれた。
統合にあたり大切だと感じたことは、両大学が統合するまでに「『すべきこと』と『統合後でもよいこと』をトップが決めることだ」と述べた。統合の日までに全てのことはできないので、それぞれをトップが示すことが大切なのだという。
大竹理事長と同大の田中雄二郎学長は学内を回って意見を聞くタウンホールミーティングを行っていると話す。そこでは応援から指摘までさまざまな意見をもらう。「一体化による現場の疲弊を理解して指揮し、不要なことを排除して負担の軽減に取り組み続けたい」と説明した。

統合の苦労やその後の対応について話す大竹理事長
■活躍する若者への期待
大竹理事長は、若手研究者が積極的に動いてくれていると紹介する。医歯学系と理工学系の若手研究者がそれぞれ、分野やキャンパスの枠を越え、大学のファシリテートがなくとも、自律的に協力する動きが出ているようだ。学生がサークルなどで協同して、活動する姿も見られると語った。
先日、理事長の母校である横須賀高校(神奈川県)を訪問した際、「大学生レベルの本を読んでいる高校生がいて驚いた」と振り返る。「そんな高校生たちが東京科学大に入学してくれたら一番いい」と本音と冗談をまぜつつ、「彼らをどのように育てていくのかは日本全体の課題だ」と真剣な表情で訴えた。
自身の過去を振り返り、「若い頃は自分の専門以外の科目の大切さが分からない」と語った。「可能であれば、サブとしてもう1つの専門科目を見いだせるほどに勉強してほしい。それが将来生きてくる」と若者へ伝えたいとしている。

若者世代への期待について笑顔で話す大竹理事長
■今後
日本の億円スケールの大学と比べて、兆円規模の財源がある海外大学は喫緊の課題を解決するための研究に取り組みやすいと紹介。例えば、「新型コロナウイルスのワクチンなどにつながり、社会貢献にもなる」と述べていた。
大竹理事長は今年の年頭所感で「創造する大学でありたい」と主張。「専門性を深めることはアカデミアの原点となる」としつつ、「異なる科学領域が集合したシナジー効果に可能性を見いだしたい」とした。特色ある大学が合体したことによる研究の発展や若者の成長に期待が持てそうだ。

取材後の撮影に応じる大竹理事長