■研究成果のポイント□
◎日本で初めて医療に関する 1-100までの段階的な「へき地」尺度を開発
◎「へき地」医療に関わる有識者の方へのアンケートに基づき、人口密度、二次・三次救急病院までの距離、離島、特別豪雪地帯等を、本尺度に必要な項目として選定
◎尺度は郵便番号、市区町村、二次医療圏ごとの「へき地度」を表しており、「へき地度」が高い地域では医師が少ない傾向があっ
横浜市立大学大学院データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻の金子 惇准教授らの研究グループは、日本の医療における「へき地度」を表す尺度『Rurality Index for Japan(RIJ)を開発した。この尺度を用いることで、「へき地」の医療の特徴を見える化することができ、「へき地」の課題の解決や魅力の発信に繋がることが期待される。この研究成果は、BMJ Open誌に掲載された。
□研究背景 これまでなかった「へき地尺度」
「へき地」と都市部の健康格差、医療資源の格差は世界的な課題であり、多くの国で研究が行われている。また課題だけでなく、幅広い診療や地域の方との協働など「へき地」医療だからこその魅力も発信されている。
そのような「へき地」医療の特徴を見える化するために、諸外国では国や地域ごとに「へき地」の程度を段階的に表す「へき地尺度」が活用されている。一方で、わが国では約1100 万人が過疎地域に居住し、過疎地域は国土面積の58%を占めているものの、これまで「へき地尺度」に該当するものがなかった。
「過疎地域」「無医地区」など行政的な区分はあるが、これらは2段階あるいは3段階程度の区分で、実際の「へき地」と都市部のグラデーションを表現するには十分ではない。そこで、この研究ではこれまでの他国での研究結果と「へき地」医療に関わる医療者や行政官、住民など有識者へのアンケートを元に日本での「へき地」尺度(RIJ)を作成した。
□研究内容 100名にアンケート
研究では合意形成のための手法を活用。まずはこれまでの諸外国の研究結果や日本の「へき地」医療のエキスパートの意見を元に16項目を選出した。その後、「へき地」医療に関わる医療者、行政官、「地域医療を守る会」に参加している住民など100名にアンケートを行い、80%以上が「重要である」と見なしたものを選択した。合計3回のアンケートを行い、最終的には人口密度、直近の二次もしくは三次救急病院までの距離、離島、特別豪雪地帯の4項目が選定された。これらを組み合わせて1-100の尺度(1が最も都市部、100が最も「へき地」)を作成した。
RIJは郵便番号、市区町村、二次医療圏ごとに算出でき、既存の指標の一つであり理論的に「へき地度」と相関が強いと考えられる医師偏在指標(二次医療圏ごとの医師の偏在を表す指標)と中程度の負の相関(相関係数マイナス0.45)を認めた。また、他国で「へき地度」と負の相関が報告されている平均寿命とも負の相関(市区町村ごとの平均寿命:男性でマイナス0.35、女性でマイナス0.12)が確認された。
これらの結果より、理論的に相関が強いと思われる概念との関連を見る収束的妥当性(関連があると予想し、その通りの結果であったこと)や既存の外的指標との関連を見る基準関連妥当性(他の研究結果などで用いられている指標との一致度からみる妥当性)が確認された。