東京医科歯科大学病院集中治療部は、今年9月に集中治療後症候群(PICS)の認知を広め、予防につなげるマンガパンフレットと動画を一般公開する。
集中治療医学の進歩に伴い、近年ではより多くの重症患者を集中治療室(ICU)で救命することができるようになった。しかし、晴れてICUを退室した患者の多くが、筋力低下や持続する痛みなどのカラダの症状や、不眠や不安などのココロの症状を患い、元の生活に戻れていないことが、この10~20年で明らかになってきた。
加えて、ICUに入室した患者の家族にも、うつやPTSD(心的外傷後ストレス症候群)といったココロの症状が多く認められることも分かってきた。
このように、ICUに入室した患者が治療を受けている間だけでなく、退室した後に生じるカラダの症状やココロの症状を「集中治療後症候群(PICS)」、さらには患者の家族のココロの状態にも影響を及ぼすものを「家族の集中治療後症候群(PICS-F)」と呼ぶ。
しかし、このPICSやPICS-Fの症状や病気の知名度は低く、特に国民には知られていない。このため、つらい症状を抱えたままの生活を余儀なくされている患者らが多く存在すると考えられている。
一方で、PICS/PICS-Fに特異的な治療法は存在しないことから、「予防」が肝心。予防には、患者や患者の家族がまずはPICS/PICS-Fを理解し、さまざまな予防の取り組みについて理解してもらうことが重要であると考えられている。
そこで東京医歯大病院集中治療部は、ICUに入室する患者や家族に対して、よりわかりやすく、興味をもってPICS/PICS-Fのことを知ってもらうおうと、プロのマンガ家によって描かれたマンガでPICS/PICS-Fを理解できるパンフレットの作成を目的に、昨年6月からクラウドファンディングを実施しており、140名の支援者から約170万円の支援を得た。こうした資金などを踏まえて、マンガパンフレットとPICS紹介動画が完成した。
マンガパンフレットは、患者さんやご家族に手軽に見てもらい、また各関連施設で印刷して配布できるように、内容を3ページにまとめている。また、2019年に発表された国内の診療現場でのPICS予防の実態調査をもとに、どこの施設でも使用してもらえるような一般化された内容で汎用性のあるパンフレットとなっている。
さらに、治療法が明確ではないPICSに関する情報を提供するに際し、新たな不安や精神症状を惹起しないように言葉を慎重に選択することに注力し、絵のタッチも工夫した。一方、動画については、マンガをもとに声優による声をつけて作成し、待合室や家族控え室などでストリーミングでの活用には無音でも利用できるという。
このマンガパンフレットと動画は、クラウドファンディング「集中治療後症候群―PICSの認知を広げICU退院後の生活を守りたい」の成果物として誰でも使用できるよう東京医科歯科大ホームページ(https://www.tmd.ac.jp/medhospital/topics/)で公開する。また、日本集中治療医学会PICS委員会の承認を受け、同学会ホームページ(https://www.jsicm.org/provider/pics.html)でも公開される。