物質・材料研究機構(NIMS)と東京理科大学からなる研究チームは、少数の有機分子の分子振動を利用して脳型情報処理を行う新しい人工知能(AI)デバイスを開発した。糖尿病患者の血糖値変化の予測で、他のAIデバイスと比較して誤差を約5割減らすという高い精度を達成している。
機械学習の産業応用が進む中、計算性能の高いAIデバイスの低電力化、小型化の需要が高まっており、材料・デバイスが示す物理現象をAIに利用した「物理リザバーコンピューティング」の研究が進んでいる。だが、そのための材料・デバイスのサイズが大きいことが問題だ。
研究では、たった数個の有機分子の振動を利用した物理リザバーコンピューティングを世界で初めて実証した。情報の入力は有機分子(p-メルカプト安息香酸、pMBA)の水素イオン吸着量(化学状態)を電圧印加で制御して行い、水素イオン吸着量に依存して変化するpMBA分子の分子振動の時間変化を記憶と計算に利用したという。
少数のpMBA分子のみを使用して、糖尿病患者の約20時間の血糖値変化を学習させ、その後の5分間の変化を予測させて実際のデータと比較したところ、従来の同種デバイスによる最も精度の高い予測誤差を約50 %低減することに成功した。
研究チームは「各種センサーとの組合せにより幅広い産業で利用できる低消費電力AI端末機器への応用できる」と説明している。