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海水で最長14日間存在できる「リポソーム」 農工大研究Gが開発 持続可能な社会に貢献

東京農工大学と東京海洋大学のグループは、海水中で長期間安定な超小型脂質二分子膜カプセル(リポソーム)の作製に成功した。今後は、大量生産を可能とする製法やサイズ制御の方法を生み出していきたい考えだ。

ナノからマイクロサイズの脂質二分子膜小胞であるリポソームは、その構造が生体膜に近いことから生体との親和性が高く、有効成分を外部から保護して標的患部へ運搬するカプセルとして利用されている。海水中で成分を運ぶためのカプセルとしての応用が期待されてきたが、十分に検討されてこなかった。

研究では、神奈川県三浦半島で採取した海水及びリポソームの安定性を向上させるためにその主成分である「リン脂質」にポリエチレングリコール(PEG)を結合させたPEG化脂質を使用した。

海水はイオンをはじめとする多様な物質が含まれる電解質水溶液であり、特にプラス電荷のイオン(カチオン)は脂質二分子膜と相互作用し、これがリポソームの不安定化要因になる可能性が考えられる。

実験では最大14日間にわたる観察を行い、PEG化脂質を導入したリポソーム(PEGリポソーム)がリン脂質分子のみから構成されるリポソームと比較して、より長期間に海水中で安定に存在できることが確認された。

また安定性はPEG化脂質の含有率が増えるほど高くなった。さらに、カチオンの膜への影響をより詳細に調査するため、海水中の主要なイオンである「ナトリウム」、「カリウム」、「マグネシウム」、「カルシウム」を含む電解質溶液を使用し、各溶液中でのリポソームの安定性の違いを比較検討した。

その結果、イオンの価数や濃度によってリポソームの安定性が異なった。高濃度のカチオン溶液では脂質のみから構成されるリポソームの安定性が低下する一方で、PEGリポソームの安定性が高まることが示されている。

PEG化脂質がカチオンに対して効果を発揮してリポソームの安定性を向上させ、PEGリポソームは、最大14日間にわたり海水中で存在できることが確認されている。

研究グループは今後について「リポソームを大量に作製できるような方法の確立や特定量の有効成分を封入するためのサイズ制御などを行い、資源の有効活用によって持続可能な社会の創成に資する材料開発とその実応用への展開を目指す」としている。