熊本大学の大口裕人准教授らの研究グループは、3大血液がんの「多発性骨髄腫」において高頻度に変異が認められる遺伝子「DIS3」の造血細胞における機能を解析し、これが造血を手助けする仕組みを解明した。DIS3は造血細胞でDNA損傷を抑制することで細胞死を防ぎ、正常に血液を作りだすために必須の遺伝子であると発見している。
骨髄腫細胞では高頻度にDIS3の変異や染色体の一部の消失が見つかっているが、正常の造血細胞や骨髄腫細胞でのDIS3の機能はこれまで十分に理解されてこなかった。
研究ではまず造血細胞におけるDIS3の機能を明らかにするため、造血細胞でDIS3が機能しないマウスを作製し、検証した。
その結果、マウスでは造血障害が起こると分かっており、造血幹細胞や前駆細胞といった血液細胞を作るもとになる細胞が減少していることが分かっている。これらの細胞ではDNAの傷が増えており、細胞死が引き起こされていることが明らかになった。つまり、DIS3は造血細胞をDNA損傷から守り、細胞死を防いでいることが判明している。
続いて、DIS3機能不全が多発性骨髄腫を引き起こすのかを調査。骨髄腫細胞の起源とされる「後期B細胞」でのみDIS3が機能しないマウスを作製した。
だが、このマウスからは多発性骨髄腫は発症せず、多発性骨髄腫はDIS3機能不全だけではなく、他の遺伝学的変化との協調で引き起こされることが示唆された。
研究グループは「本研究の知見を糸口に、今後多発性骨髄腫進展の仕組みが明らかにされていくことが期待している」とコメントしている。