国立研究開発法人産業技術総合研究所などの研究グループは、気象庁大気環境観測所での大気中の二酸化炭素(CO2)と酸素(O2)の濃度の観測結果と、局所大気輸送モデルを組み合わせ、5㎞以上遠方にあるセメント工場のCO2排出を評価する手法を開発した。
化石燃料の燃焼や生物活動では、CO2排出に伴い O2が消費される。セメント工場でも、セメントの原料となる クリンカ(主成分:CaO)を生成するために石灰石が焼成される。その熱源として化石燃料の燃焼によるCO2排出とO2消費が生じる。しかし、クリンカを得るための石灰石の反応そのものでは、CO2が排出されるが、O2が消費されない。
研究グループでは、このようにO2消費を伴わない過程で放出されたCO2を、「セメント生産に由来するCO2」と定義している。
この特徴から、大気の CO2濃度とO2濃度を高精度で同時に観測し両者を 組み合わせることで、セメント生産に由来したCO2濃度の変動を抽出できる。抽出した変動は、統計値に基づく工場のセメント生産CO2排出量を大気輸送モデルに入力し、気象庁観測所における濃度変動をシミュレーションした結果によって説明できた。
このことから、大気観測の結果と大気輸送モデルを使うことで、工場のセメント生産に由来するCO2排出量を概算できたことになる。
この手法は、工場からのCO2排出・吸収にO2の反応を伴わ ないプロセスに広く適用できる。「セメント生産」を、CO2を大気から除去するDAC(Direct Air Capture)などの「ネガティブエミッション技術」に読み換えることが可能で、当該技術の導入時にCO2削減量の実態をモニタリングするために有望な手段といえる。
この技術の詳細は、「Atmospheric Chemistry and Physics」誌に掲載された
この研究は産総研環境創生研究部門環境動態評価研究グループの石戸谷重之研究グループ長(兼務:ゼロエミッション国際共同研究センター)、近藤裕昭客員研究員、物質計測標準研究部門ガス・湿度標準研究グループの青木伸行主任研究員(兼務:ゼロエミッション国際共同研究センタ ー)と、気象庁気象研究所の坪井一寛室長、石島健太郎主任研究官、松枝秀和研究官らにより行われた。