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「社会的時差ボケ」が血管を硬くし、早朝の血圧を増大させる 早稲田大助教らが解明

早稲田大学スポーツ科学学術院の中村宣博助教と谷澤薫平(くんぺい)准教授らの研究グループは、一過性の社会的時差ボケが早朝の血圧を過度に上昇させることを明らかにした。休日の生活リズムを人為的にずらし、社会的時差ボケの状態を作り出す介入研究を実施したもので、社会的時差ボケの健康影響を明らかにするための介入方法を確立した。さらに、一過性(たった一回)の社会的時差ボケが血管を硬くし、早朝の血圧を過度に上昇させることが明らかになった。この研究で観察された現象が、月曜日の朝に心血管疾患が起こりやすい理由の一端を担っている可能性があるため、研究グループでは、早朝の過度な昇圧のメカニズムを明らかにする検証を続けることとしている。

⑴これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

人々はしばしば、休日に遅く起きたり夜更かしするなど、平日と休日の生活リズムが数時間ずれる状態を経験する。休日の生活リズムの乱れにより、平日の生活リズムとの不調和が起きる現象は「社会的時差ボケ」と呼ばれている。これまでの研究では、慢性的な社会的時差ボケが身体に悪影響を及ぼす可能性が示唆されているが、それらは全て観察研究(横断研究)で得られた相関関係であり、因果関係の解明には至っていない。

また、観察研究で得られた社会的時差ボケによる身体への悪影響は、長期に渡る慢性的な社会的時差ボケにより生じたのか、それとも一過性(一回)の社会的時差ボケにより生じたのかは不明。

以上のことから、休日の生活リズムを意図的にずらし、社会的時差ボケの状態を作り出す介入研究を行い、一過性の社会的時差ボケが身体に及ぼす影響を検討する必要があると考えられる。

血圧は、就寝時に低下し、起床前から起床後2時間頃まで上昇する。早朝の血圧増加は必要不可欠な応答だが、過度な昇圧は心血管イベントのリスクとなることが報告されている。興味深いことに、早朝の過度な血圧増加は月曜日に発生しやすいことが報告されている。現代社会で、多くの人々が土曜日と日曜日の休日を経て、月曜日からの平日の生活へ戻る。これらを考慮すると、社会的時差ボケが早朝の過度な血圧増加を引き起こすことが予想される。

⑵今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

今回の研究の目的は、一過性の社会的時差ボケが早朝血圧に及ぼす影響を検討すること。平日と休日の生活リズムがほとんど変わらない(社会的時差ボケ2時間未満)若年男性20名を対象とした。

対象者には、2時間以上の社会的時差ボケを起こす試行(社会的時差ボケ試行)と平日と同様の生活リズムの試行(コントロール試行)の両方を、ランダムな順番で実施してもらった人々はこれらの試行前後(金曜日と月曜日)の早朝血圧を評価した。また、早朝血圧に影響する動脈硬化度や自律神経指標も測定した。

その結果、一過性の社会的時差ボケが早朝血圧を増大させることが明らかになった。また、早朝血圧の変化と動脈硬化度の変化量(図 2a)、動脈硬化度と交感神経活動の変化量の間に有意な相関関係が認められた。これらの結果は、社会的時差ボケはたった一回であっても身体に悪影響を及ぼすこと、また、社会的時差ボケによる早朝血圧の増大には動脈硬化が関係していることを示唆している。