東京大学の神谷岳洋准教授らによる研究グループは、キュウリの表面に形成される突起「分泌性トライコム」の特定の細胞に形成される化合物リグニンが、トライコムに貯蔵された物質が漏れないようにする障壁として機能することを発見した。「ネックストリップ」と名付けられている。
トライコムは、特殊な物質を合成している。ここで合成される物質は、植物にとって生存するために不可欠なものだ。例えば、キュウリのトライコムで合成されるブルームは、物理的な強度を与えることにより害虫抵抗性を付与しているとされている。こうした価値が知られていたが、トライコムが合成と貯蔵を行うことができる仕組みは長年の謎であった。
研究チームは、キュウリの果実においてブルームの主成分であるケイ素の濃度を調べた。果実のケイ素濃度は野生型株とブルームレス変異株と同程度であったが、野生型株では果実表面の分泌トライコムにケイ素が局所的に多く蓄積していることを発見した。
ブルームはケイ酸の重合体であるシリカが主成分であり、シリカはケイ酸濃度が高くなると酵素非依存的に形成されることが分かっている。このことから、変異株でブルームが形成されない理由は、トライコムにおいて高濃度のケイ素が蓄積できないためだと考えられた。
次に、CsMYB36とブルームレスの関係を調べた。CsMYB36が転写因子であり果実で多く発現していることから、果皮のメッセンジャーRNA(mRNA)発現解析を行い、野生型株と変異株で発現量に差がある遺伝子を調べた。その結果、CASP1と呼ばれる遺伝子の発現が顕著に低下した。
CASP1は、根においてリグニンを主成分とする「アポプラスト障壁」の形成に必要な遺伝子であることが他の植物を用いた先行研究によって明らかになっている。そこで、果実でリグニン染色を行ったところ、分泌性トライコムのneck cellの周囲にリグニンが蓄積していることを発見した。
この構造が新規の構造であることからネックストリップと研究グループは命名した。変異株ではバリアの機能をするネックストリップがないために、ケイ素が漏れ出てしまい、頭部の細胞に高濃度に蓄積できずブルームが形成されないと推測される。
研究グループは「今回の研究は、分泌性トライコムがその機能を発揮するための要となる構造を発見したもの。農業だけではなく医学分野においても大きな進展をもたらす」としている。