東京大学の研究グループは、ゲノムの高度反復配列から転写される「ヒューマンサテライトⅡ(HSATⅡ)」と呼ばれるRNAが二重鎖を形成することによって、膵がん細胞の悪性化を促進する可能性があることを明らかにした。難治がんに対する新しい側面からの病態解明、治療法の開拓の礎となる可能性がある。
研究チームが膵がんにおける分子機序の解明などの研究を進める中で「HSATII 配列は数塩基~10塩基程度のユニット配列が複雑に縦列反復する構造を取るため、両方向性に転写された場合は相補鎖同士が結合して二重鎖を形成しやすくなるのではないか」という仮説が生まれた。
実際に膵がん細胞を用いて二重鎖HSATII RNAの形成の有無、その分子機能についての検討を行った。その結果、膵がん細胞によって形成された腫瘍では他の反復配列と比較してHSATII RNAの発現が著明に亢進すること、それに伴って二重鎖HSATII RNAが形成されるということが分かった。
次に、二重鎖HSATII RNA を過剰に発現させた膵がん細胞株ではどのような変化が起きるかを調べた。その結果、二重鎖HSATII RNA発現細胞では上皮間葉転換という形態変化が誘導されており、細胞の浸潤傾向が強まっていることが分かった。
この分子機序を調べるため、二重鎖を形成したHSATII RNA特異的に結合するたんぱく質を検索したところ、たんぱく質「STRBP」が同定された。
STRBPは上皮間葉転換に関連する遺伝子群の選択的スプライシングを制御して上皮型の形態を維持しており、そこに二重鎖HSATII RNA が結合することによって間葉型のスプライシングパターンへの移行が起こることが判明した。
研究グループは「この研究の成果を礎にしてその病態学的意義が解明され、最終的には発がん予防や新規の治療標的の導出へとつながっていくことが期待される」と評価している。