簡単に作製可能ながん組織モデルでがん研究に新たな展開-。東京農工大学と物質・材料研究機構(NIMS)、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の共同研究により、超撥水(はっすい)性の基板を用いた手法で開発したがん組織「がんスフェロイド」の特徴を明らかにした。がんの振る舞いを再現する生体外モデルとして活用できることを示している。
先行研究で作成したがん組織は従来の作成法と比較して、形状の制御や再現性の面でメリットがあったが、特徴が捉えきれておらず体内のがん腫瘍の振る舞いを再現できているかが不明瞭であった。
作製したがんスフェロイドは、直径数ミリメートルであっても比較的短期間(5日間)で成熟させることができる。これは、これまでの手法で作製可能なサイズである直径500マイクロメートルを上回る。
乳がん細胞を用いた場合、作製後3日目からスフェロイドの外表面に細胞が集中し、殻のような層を形成することで内部が高度な低酸素状態になることが分かった。その後10日以上にわたって培養を続けると、内部に壊死した細胞のかたまり「ネクロティックコア」が形成されることも確認した。
また、がん細胞がスフェロイドから脱出する現象も観察され、がんの転移と同様の振る舞いを再現可能であることを示した。体内と同様の低酸素状態にした場合には、スフェロイ
ドからのがん細胞の脱出速度が速くなることも突き止めている。
研究チームは「今後は血管細胞などとの共存培養により、腫瘍血管新生などがん腫瘍の周辺環境を再現する生体外がんモデルとして作り込むことで、難治性がんの病態や転移のメカニズム解明に貢献できる」としている。