北海道大学の大舘智志助教らの研究グループは、ジャコウネズミの移動の歴史を遺伝情報に基づき調査した。琉球半島への渡来は約3000年前と推測され、長崎の個体群はマレーシアなどとの近縁性が認められた。ネズミを通して日本列島南部の人の往来史を解明することにつながるか可能性もある。
ジャコウネズミは東南アジア大陸部や南アジアが原産地とされるが、人の移動に伴って分布域を広げ、現在では琉球列島や東南アジア島嶼部、インド洋の沿岸、アフリカ東岸部まで分布する。だが、詳細な移動ルートや移動時期については不明であった。
研究グループは、ゲノムやミトコンドリア遺伝子配列の情報に基づき、各地域の個体群の分岐年代や遺伝的多様性、交雑の可能性について検証した。その結果、琉球列島に生息する個体群はベトナムや中国南部などの東南アジア方面の個体と密接な関係にあることが判明した。
また、ミトコンドリア遺伝子の系統に基づく推測から、琉球列島への渡来は約3000年前である可能性が示唆された。これはオーストロネシア系の文化が南琉球に現れた時期と一致している。この時期に琉球列島で船による人の移動や交易が行われていたことを示唆するこの発見は、琉球列島の人類史において興味深い知見だという。
さらに全ゲノム解析により、琉球列島の個体群が台湾やベトナムの個体群と交雑している可能性が示唆。初回の移入後に何度かのさらなる移入が行われたことが予想された。一方、長崎に生息する個体群はマレーシアやミャンマー南部の個体群と近縁性が認められ、16世紀以降の九州を拠点とした海洋貿易による移入の関与が考えられている。
大舘助教らは「人に帯同して移動するジャコウネズミの移動の歴史を推定することにより、人の移動の歴史を推察することが可能となる」とし「ジャコウネズミの琉球列島への最初の移入の後、さらなる移入がいつ頃、どこから起きたのかを調べることにより、人の交流の歴史が紐解かれていく」と説明している。