京都大学の林眞理客員准教授らのグループは、染色体融合を持つ細胞核を可視化できる独自のレポーター細胞を開発。それを使った分析によると、外来核酸に応答する機構「cGAS-STING」の活性化は微小核により発生しなかったとしている。この成果はモデルの再考をうながす重要なものだという。
外部から侵入してきた細菌やウイルスに応答する自然免疫機構が備わっている。細胞質基質に存在する外来核酸に応答する機構としてcGAS-STING応答経路が知られる。この経路は自身の核酸を含む異常な細胞内構造体「微小核」でも活性化されて細胞への影響が注目されたが、その証拠はほとんどなかった。
研究グループは、特殊な人工DNA配列をヒト培養細胞の染色体に導入することで、新たなレポーター細胞「FuVis2」を作成した。この細胞では好きなタイミングで研究者が染色体融合を誘導し、その細胞の核を蛍光たんぱく質で可視化することができる。
FuVis2を用いることで染色体融合によって生じた微小核の運命を個別の生細胞で解析することが可能となった。その分析によるとこれまでの報告とは異なりcGASが微小核DNAを補足するのは細胞分裂期であり、さらに同じ細胞ではその後もSTINGの活性化が生じていないと判明した。
また、微小核がcGAS-STING経路を活性化すると報告されていたが、放射線後のSTING活性化は微小核の形成や微小核へのcGAS凝集とは無関係であり、ミトコンドリアDNAが細胞質基質に漏れ出すことが原因であることを明らかにした。
林准教授らは「今回の成果はこれら既存のモデルの再考を促すものとなった」とし「自然免疫応答に対して不活性であることで、微小核はこれまで考えられていたよりもさらに危険な染色体異常であるのかもしれない」と分析している。