産業技術総合研究所の井⼝亮主任研究員らと海洋生物環境研究所、摂南⼤学のグループは、海洋酸性化と貧酸素化がシロギスの卵に及ぼす影響を遺伝⼦レベルで明らかにした。研究によって得られた成果は、気候変動による⽔産資源への影響を考える上で重要な知⾒となるという。
研究グループは⼆酸化炭素と空気、窒素をさまざまな割合で混合したガスを添加して暴露⽤海⽔を作成できる実験システムを組み上げた。対照区、酸性化海⽔区、貧酸素海⽔区、酸性化・貧酸素複合海⽔区を作成。それら海⽔を25度に保ち、約2時間静置したシロギスの卵からRNAを抽出して遺伝⼦発現解析を実施した。
その結果、対照区と酸性化海⽔区で遺伝⼦発現傾向が類似している⼀⽅で、貧酸素海⽔区では対照区とは異なっていた。そのため、酸性化海⽔よりも貧酸素海⽔で、遺伝⼦発現はより強く影響されることが明らかとなっている。
また、貧酸素海⽔区では、解糖系に関与する遺伝⼦群(13遺伝⼦)の発現が増加していた。これは酸素⽋乏によって電⼦伝達経路が働きにくくなった結果、解糖系を動かすことでエネルギー物質「アデノシン三リン酸」の産⽣を補おうとしているためと推察された。
井口主任研究員らは今後について「他の海洋⽣物種も対象とした類似の実験を実施して、シロギスで⾒られた応答パターンが他の⽣物種にも⾒られるのか。その差異を踏まえて、今後の気候変動が海洋⽣態系の⽣物群集にどのような影響が⽣じさせるのかを明らかにすることを⽬指したい」としている。