東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センターの髙田隼人特任准教授(当時山梨県富士山科学研究所)らの研究グループは、長野県浅間山麓の高山草原で、ニホンジカとニホンカモシカの直接的な交渉を8年間にわたる直接観察調査により記録し、2種の直接的な種間関係を解明した。シカはカモシカに対し攻撃行動を全く示さないのに対し、カモシカはシカに対し、〝歩いて接近〟〝走って追いかけ〟〝威嚇声〟〝足の踏み鳴らし〟などの攻撃行動を稀に(10例:交渉全体の15.6%)示すことが明らかになった。
ただし、カモシカが攻撃によりシカを追い払えることは、交渉全体の3.1%に過ぎない2例と非常にまれ。ほとんどの場合シカはカモシカの攻撃を気にしないか、数メートル避けてその場に居座り続けた。また、シカはカモシカが発見可能な近距離にいても警戒行動を示す頻度が低く、警戒行動の継続時間とも短かったのに対し、カモシカはシカに対し頻繁に警戒行動を示し、その継続時間もシカに比べて長いことも示された。
カモシカは基本的に単独で暮らし、行動圏内にある食物を同種他個体から守るなわばりを持つのに対し、シカは群れで暮らし、なわばりを持たない。この社会性の違いが2種の互いへの反応の違いを生み出している可能性が考えられた。 また、カモシカのシカへの過剰な反応は、自身の採食効率の低下や生理ストレスの増加を招き、個体の生存や繁殖に負の影響を与える可能性がある。