理化学研究所の中村匠研究員らの研究チームは、世界最大規模の自閉スペクトラム症(ASD)家系のゲノムデータを用いて、患者からは検出されるが両親からはされない新生変異「デノボ変異」を解析した。その結果、遺伝子発現異常を引き起こし、疾患リスクを高める「バタフライエフェクト」が発生しているとした。米科学雑誌に26日付で掲載されている。
研究チームは、ASD患者のゲノム全領域を対象としたデノボ変異研究としては世界最多の5044家系を解析した。
その結果、遺伝子の上流で発言を制御する「プロモーター領域」のデノボ変異のうち、変異を含むゲノムの3次元構造(TAD)内にASDの関連遺伝子が存在するとリスクが上昇した。一方で、それ以外のプロモーター領域デノボ変異は疾患リスクとの統計的関連を示さないことを明らかにした。
さらに、ヒトiPS細胞への変異導入実験により、この種のプロモーター領域デノボ変異が、近傍のASD関連遺伝子の発現異常を引き起こすだけでなく、細胞全体で他のASD関連遺伝子や神経発達関連遺伝子の発現変動を誘発するという、「バタフライエフェクト」のような現象を起こしていることが分かった。
研究グループは「より確実で深い知見を得るためには、さらに多くの家系や患者のゲノム解析を行う必要がある」とコメント。「そのような研究を推進し、ゲノム解析の知見を病態理解につなげ、病態理解から新たな診断・治療・予防法の開発へと展開することが期待される」としている。