物質・材料研究機構(NIMS)は、世界で初めてダイヤモンドのn型チャネル動作による金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を開発した。この成果は一般電子機器用ICに代表されるモノリシック集積化に向けて耐環境型の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)集積回路の実現、及び将来的に強く期待されるダイヤモンドのパワーエレクトロニクス応用に対して重要な一歩となる。
ダイヤモンド半導体は、高い絶縁耐圧や高速スイッチングなどの特性を高温、高放射線被曝環境などの環境で実現することが可能だ。それを生かして環境安定性に優れた制御系の集積回路に利用するために、高機能化CMOSの実現が期待されている。CMOS構造にはpとn型の双方の導電性チャネルが必須だが、ダイヤモンドではn型チャネルを持つMOSFETが実現できていなかった。
NIMSはn型チャネルダイヤモンドMOSFETを開発した。低濃度のリンをドープした原子的に平坦なテラスを有する高品質n型ダイヤモンドの結晶成長に成功した。これをチャネル層に用いたMOSFET構造において、高濃度でリンをドープしたダイヤモンドをソースおよびドレインのコンタクト層として使用することで接触抵抗を大幅に低減し、n型チャネルのトランジスタ特性を確認した。
トランジスタ性能の重要な指標である電界効果移動度は、300度において約150cm2/V・secの高い値を示し、優れた高温動作特性が確認できた。NIMSは「本成果は、省エネパワーエレクトロニクス、スピントロニクス、耐環境型の微小電気機械システム(MEMS)センサーの実現に向けたCMOS集積回路に応用されるかもしれない」としている。