福井大学と横浜国立大学、東京農工大学の共同研究グループは、カイコが生産した天然のシルク水溶液を用いて、圧力によりシルクが繊維化前から後の構造に変化する様子を追跡することに成功した。
核磁気の振る舞いから資料の構造情報を得る「固体NMR法」で、高分解能なスペクトルを得るために、測定中に試料管を高速で回転させるマジック角回転を行った。この研究では、この角回転により測定試料に遠心力由来の圧力がかかる点を利用し、圧力下でのシルク分子の構造転移をリアルタイムで追跡することを成し遂げた。
次に、相対的に運動性の低い成分と高い成分を区別して観測できる測定を交互に繰り返した。線維化前構造「Silk I 」と後構造「Silk II」の構造変化を追跡することに成功して構造転移において中間体構造が存在することを示し、中間体構造が「単層ラメラ構造」であると提案した。
リアルタイムモニタリングによる繊維化後構造の強度変化から、構造転移は「ラグタイム」と「フィブリル成長」の2段階からなることを明らかにした。さらに、圧力を大きくするとラグライムが短く、かつフィブリル成長速度が大きくなることから、構造転移速度は圧力依存的であることを示した。
これらの結果から、圧力によるシルクの構造転移は2段階自己触媒反応メカニズムで説明できることが分かった。
研究グループは「本研究で圧力によるシルク水溶液の構造転移メカニズムが明らかになったことで、シルクの繊維生産方法の解明、およびそれを模倣した新しい紡糸技術の開発に大きく寄与する」としている。