東京大学の田中肇名誉教授らは、流体力学的な相互作用を正しく取り入れた数値シミュレーションにより、帯電した繰り返し単位で構成される高分子「ポリイオン」の凝縮のダイナミクスに液体の流れがどのような影響を与えるかについて詳細な研究を行った。田中名誉教授らはこの研究成果を「水流の魔法:電荷を帯びた高分子の変身」と表現している。
実験では研究グループが開発した「流体粒子ダイナミクス(FPD)法」を用いた。疎水性相互作用と多価塩で誘発されるポリイオンの凝縮過程において、静電相互作用と流体力学的相互作用の多体性を正しく取り入れて調査した。
その結果、ポリイオンの運動に伴って引き起こされる流れによる流体力学的相互作用が両方の条件下で凝縮を加速させることを発見。
また多価塩による凝縮では、流体力学的相互作用は初期には多価イオンの凝縮ダイナミクスにほとんど影響を与えないものの、後期には局所的な電気双極子を持つクラスターの動きを加速し、凝縮を速めることが分かった。
田中名誉教授は「一見地味に見える黒子のような液体がこれらの高分子が形を変える際に
大事な働きをしていることを示したもので、たんぱく質の折り畳みなど、重要な生物学的プロセスの理解につながればと思っている」と述べている。