長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科の吉岡浩太准教授らの研究グループは、「日本における顧みられない熱帯病の現状:スコーピングレビュー」を発表した。わが国でのこの疾患に対する現状を概観した論文で、国内医療体制の脆弱性を強く指摘している。
顧みられない熱帯病(NTDs)は、世界保健機関(WHO)が、人類の中で制圧しなければならない熱帯病として定めた、主に熱帯地域で蔓延している20の疾患グループ。衛生環境の整っている日本をはじめとする高所得国においては大きな注意を払われることもなく、途上国の課題と捉えられることが一般的な疾患ばかり。
■NTDs、日本国内でも3年間で340件の報告
しかし、実際には日本国内でも2014年から2017年にかけて、年間平均 340件のNTDsの 症例が公式に報告されており、しかもこの数字はNTDsの現実を過小評価していると考えられる。
それにもかかわらず日本では多くのNTDsについて監視・防除プログラムなど対処のための法的な枠組みがないこと、承認されている治療薬がないこと、薬剤調達を限られた数の医師や研究者に過度に依存し、対処を委ねているなどの現状を今回の論文で明らかにしている。
さらに、NTDsに関するサーベイ ランスの強化、診断及び医薬品へのアクセスの拡大、未承認のNTDs治療薬の手頃な価格の確保といっ た課題も指摘している。
気候変動や人口移動により、これまで国内では見られなかった疾患の流行も懸念される中、NTDsに関する研究を推進する重要性を訴えるとともに、NTDsに対する一般の関心を高める必要性を説いている。