横浜市立大学国際商学部の大塚章弘准教授は、全要素生産性(TFP)の地域間格差を計 測する方法を開発し、日本の産業における生産性の地域間格差の動向を分析した。TFPの地域間格差の分析は、確率的収束モデルの手法をもとに産業別に実施され、分析の結果、 製造業のTFPは各都道府県それぞれの固有の水準に収束しつつ、成長していることを確認 した。
■研究背景
国内の地域間格差は、国の経済成長とその持続的な発展を考えるうえで重要なテーマ。日本では、2000 年以降、産業集積の形成と強化に関する様々な産業立地政策が実施さ れた。例えば、経済産業省の「産業クラスター計画」や文部科学省の「知的クラスター 創成事業」といった政策は、地方自治体が地元の企業や大学、研究機関と連携することで、 産業のイノベーション能力を高めることを目指している。
こうした政策は、経営資源が乏しい地方であっても、産学官のネットワーク形成によって地域固有の技術に基づいた新技術や新製品の開発が可能になることが期待されていた。政策実施から約20年が経過した現在、各地域の生産性はどのようになったのか、生産性 の動向とその地域間格差を検証するべきタイミングを迎えている。
2000年代に発表された地域間格差に関する研究は、米国「Garofalo and Yamarik」(2002)、ドイツ「Keller」(2000)、日本では「Fukao and Yue」(2000)などがある。しかし、それらの研究は全て、経済全体の成長パフォーマンスに焦点を当てたもので、個別産業の視点は分析モデル構築の難しさ等の理由から研究対象外となっていた。このため、地域間格差の具体的要因を解明するためには、産業別データを活用した地域間格差評価のための分析モデル構築が望まれていた。
諸外国では、フランスで競争的な産業クラスターに立地している企業の生産性は、産業クラスターに立地していない企業と比較して、相対的に高かったことを示した研究事例がある。もしも日本の産業立地政策が、政策当局が想定したような効果を発揮したならば、地方産業の生産性は上昇したはずで、結果として、多くの地方が先進地域にキャ ッチアップした可能性があることから、大塚准教授らが研究は、統計的手法をもとに可能性を評価したもの。
■研究内容
大塚准教授らが研究では、2000 年を出発点として、データが入手可能な最新年である 2018年までの時間軸で、TFPの地域間格差収束の有無を産業別に検証している。この研究の特徴は次の2点です。第一は、都道府県別産業別にTFPを計測することで、現時点での各産業の技術水準を定量評価している点。第二は、生産性の地域間格差収束を産業別の視点から 検証している点。
まず、研究では、地域間格差収束を検証するための確率的収束モデルを構築。そのモデルをもとに分析した結果、加工組立型製造業のTFP成長が著しく、TFPが地域間格 差収束を伴いながら成長している可能性が示唆された。
そこで、地域間格差収束の有無 を統計的に検証したところ、製造業を中心とするモノづくり産業では、TFPの地域間格差が 収束している証拠を得ることができた(図参照)。