東京大学の飯野雄一教授らによる研究グループは、土壌などに生息する「線虫」の運動神経が塩濃度低下の情報と運動情報を統合することを発見。これによって線虫の進行方向が好ましい方向へ曲がるように首の動きが調節されることを見つけた。
線虫は体長1ミリほどの生物で、餌とともに経験した塩濃度に誘引される「塩濃度走性」という行動を示す。線虫は鼻先の1点でしか塩を感知できないので、自分の周りの濃度勾配(こうばい)がどうなっているのかを動かなければ知ることができない。
にもかかわらず、先行研究から線虫には目的の濃度に向かって進行方向を緩やかにカーブさせる行動戦略「風見鶏機構」があると分かっていた。
「どうやって周囲の塩濃度を感知しているのか」―。この疑問を解決するため研究グループは、動いている線虫に塩濃度変化を与えることができる「微小流路」を開発した。これを用いて神経活動を計測し、塩濃度変化という感覚情報と首の動きという運動情報、そして神経活動の関係を調べた。
その結果、線虫の背側の首の筋肉の運動神経「SMBD」が腹側に曲がるときのみ塩濃度低下に対して活性化すると発見。これにより「腹側の方が塩濃度が低い」ということを検出できる。それにより、これ以上腹側に首を曲げることを抑えて、塩濃度が低い方向に進まないよう進行方向を調節していることを突き止めた。
飯野教授らは「本研究の成果は、さまざまな生物の神経回路内で行われている情報処理の機構の解明に貢献する」としている。