熊本大学病院等の研究グループは、2005年から2020年までの日本全国規模でのデータを統計分析することで、心停止患者の年齢や性別によって、自動体外式除細動器(AED)による電気的除細動や心肺蘇生法(CPR)の実施率と処置の実施による神経学的予後への影響が異なることを明らかにした。この研究を行ったのは、石井正将医療情報経営企画部講師及び辻田賢一循環器内科教授らは、東京大学、日本循環器学会蘇生科学検討会等の研究チーム。総務省消防庁の救急蘇生統計に係るデータを利用して、心停止患者の年齢や性別が救命活動の施行や神経学的予後に及ぼす影響を検討した。この研究成果は、医学分野の学術誌「JAMA Network Open」に掲載された。
公共の場所で突然心停止になった場合、その場に居合わせた人による迅速な救命活動が非常に重要。しかし、これまでの研究によれば、心停止した患者が若年の女性の場合には、救急の現場に居合わせた人によるAEDを用いた電気的除細動やCPRの実施された割合が低いことが報告されている。この性別や年齢による格差が、心停止後の神経学的予後にどのような影響を及ぼしているかについては十分に分かっていなかった。
研究では、2005年から2020年までの期間のデータを分析した。市民により目撃された心原性院外心停止(OHCA:心臓が原因の心停止で、病院外で起きたもの)患者35万4409例を分析対象として、年齢と性別を要因として考慮し、年齢は四つのグループに分類した(14歳以下の児童、15歳から49歳の若年成人、50歳から74歳の中高年、75歳以上の高齢者)。
主な評価項目は30日後の神経学的な予後良好の割合で、副次評価項目は市民によって行われたAEDによる電気的除細動やCPRを受けた割合。
分析対象とした約35万例の年齢は中央値で78歳(67-86歳)、女性が38.5%、心停止の場に居合わせたのが家族であった人は64%を占めていた。AEDによる除細動を受けたOHCA患者の割合は、男性では3.2%、女性では1.5%と女性が少ない結果だったが、市民によるCPRを受けたOHCA患者の割合は、男性では49.2%、女性では54.1%と女性が多かった。
年齢別の分析では、若年成人の女性は同年代の男性よりもAEDによる除細動やCPRの受けた割合が低かった一方で、30日後の神経学的な予後は良好だった。一方、高齢者グループでは女性の方が神経学的な予後が悪く、性別と年齢との間に交互作用がみられなかった。
さらに、女性でAEDによる除細動やバイスタンダーによるCPRが神経学的な予後に与える影響を評価した結果、年齢によって神経学的な予後へ与える影響は異なるものの、若年女性は良好な神経学的予後と関連していることが判明した。
調査結果から、OHCA患者がAEDによる除細動やバイスタンダーによるCPRを受ける割合や神経学的な予後は、性別や年齢によって異なることがあらためて示された。特に若年女性の場合、AEDによる除細動やCPRの実施によって神経学的な予後が改善される可能性があるため、市民への救命活動の啓発が重要であることが明らかとなった。