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生態系再生のために日本の野山にオオカミを放すべきか? 1万人を対象とした意識調査よりオオカミの生態系の中での役割が認識されるとともに人々の再導入への意識はより肯定的に(立命館大)

■研究のポイント□

◎生態系の再生を目指しオオカミを野山に放すことに対して39.9%が反対、17.1%が賛成。最も多かったのは「賛成とも反対とも言えない」(中立)43.3%

◎オオカミによる人身被害を心配するなど危機意識が高まると再導入に反対する割合が増えた

◎シカの個体数の抑制効果などオオカミの生態学的役割に関する理解がある人、また野生動物との共存を志向する価値観を持つ人は再導入に賛成する割合が高かった

立命館大学政策科学部の桜井良准教授らの研究チームは、絶滅した野生動物を生態系の再生のために放す再導入事業の効果や実現可能性について調査を行ってきた。今回、オオカミの再導入に関して、1万人を対象とした大規模な意識調査を行ったところ、オオカミの生態系の中での役割が認識されるとともに、人々の再導入への意識が肯定的な態度へ変わっていく可能性があることが明らかとなった。この研究成果は、『Conservation Biology』に発表した。

民主主義国家で民意が政策に大きな影響を与えるが、絶滅種の再導入の実現可能性を考えるうえでも、人々の意識を把握する必要がある。桜井准教授らの研究ではオンラインアンケートを実施して、回答した1万2028人の日本在住者の中から日本の人口と同じ属性分布となる7500人を割当法により抽出し、分析した。

調査の結果、オオカミ再導入に対しては、およそ40%の回答者が反対した一方、それより多い回答者(43%)がこの問題に対して中立的な立場をとっていることが浮き彫りとなった。

オオカミがいると人が襲われるのではないかと危機意識を持つ回答者ほど再導入に反対した一方、オオカミによるシカの個体数抑制作用などの生態学的な知識を持つ回答者ほど再導入に賛成する傾向がみられた。

この研究により、オオカミの生態学的役割に関する人々の理解が深まり、野生動物との共存

を志向する価値観が主流となっていく中で、今後日本人のオオカミ再導入への態度が肯定的なものへと変わる可能性があることが分かった。