東京医科歯科大学の研究グループは、新型コロナウイルス流行下と研修開始時点という高い心的負荷がかかる時期でも、初期研修医のGritが高いことは、抑うつ症状の発生を予防することを突き止めた。Gritは〝やりぬく力〟という非認知能力の一つで、12項目の質問で構成。各方面の成功に大きく貢献していることが報告されおり、ここ数年注目を集めている。この研究は文科省「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」の一部支援のもとで行われたもので、研究成果は、国際科学誌 medical education onlineのオンライン版で発表された。
この研究は行ったのは、同大大学院医歯学総合研究科臨床医学教育開発学分野の赤石雄助教、山脇正永教授と国際健康推進医学分野の那波伸敏准教授。
初期研修医が、抑うつ症状やうつ病を有する割合は、一般人口の割合より高いことが分かっている。研修医がうつ病を抱えている場合、抱えていない場合と比較し、医学的なミスを犯しやすいことが報告されており、取り組むべき喫緊の課題の一つであると認識されている。
また、新型コロナウイルスの流行は、感染の恐怖や家族からの隔離など、研修医を含む医療従事者のメンタルヘルスに影響を与えたことも報告されている。
研究グループは、このような心的ストレスの多い状況下で、研修プログラムを開始する初期研修医のGritと抑うつ症状を有する割合の関係を解析した。
研究グループは、東京医歯大病院の研修プログラムの初期研修医を対象に、2020年から2022年にかけてオンラインアンケートを行った。測定時期は、各年度の入職前後の時期に統一。Gritの点数は、日本語版のGritの短縮版である「Grit-S」の質問紙で、抑うつ症状の有無は、CES-D(うつ病自己評価尺度)という質問紙で測定しました。その他にも、喫煙歴、飲酒、運動習慣、睡眠、食事などに関しても詳細にデータを取得した。
最終的に、221名(2020年70名、2021年88名、2022年63名)の研修医を対象にデータの解析を行い、対象者の平均年齢は25.1 歳で、性別は男性134名、女性87名。研修開始時点に、抑うつ症状を有していたのは28名(12.7%)だった。
抑うつ症状を有しないグループのGrit‐Sの点数は3.4で、抑うつ症状を有するグループの同点数は3.0で、この差が解析で大きいことが明らかとなった。
また、Grit‐S の下位尺度である根気尺度の点数で、抑うつ症状を有しないグループと有するグループ間で大きい差も確認された。(抑うつ症状なし群3.7vs抑うつ症状あり群 3.2)。
多変量解析の結果、Grit-Sのスコアが1点上昇すると、年齢や性別などの複数の因子を調整した後に、抑うつ症状を有するオッズが63%下がることが分かった(オッズ比0.37)。
この研究によって、多大な心理的ストレスのかかる状況で、Grit‐Sの点数と抑うつ症状の有無の関連が示された。つまり、Grit‐Sが高いと精神を安定させる方向に働き、Grit‐Sが低いと抑うつ症状が出現しやすくなるということが判明した。このため、初期研修医のGrit‐Sが低い場合には、うつ病発症の予防や早期発見のために、定期的な面談などのフォローが推奨されることが分かった。
また、Gritは非認知能力の一つとされていますが、このような非認知能力を高める取り組みを研修中や研修前の学生時代に行うことが有益であるともいえることも判明。研究グループは「この発見が、今後、非認知能力の育成をより意識した大学でのカリキュラムや講義構成の重要性を示す根拠の一つになる可能性があります」としている。