⼀重項分裂は、光照射により⽣成された1分⼦の励起⼀重項状態が近傍の分⼦とエネルギーを共有し、二つの励起三重項状態を⽣成する現象。この過程で⽣じる「五重項状態」と呼ばれる特殊な量⼦状態は、量⼦コンピューティングをはじめとする量⼦技術の最⼩単位である量⼦ビットに利⽤できることから、ここ数年研究が進んでいる。量子ビットは0と1で表される古典的なビットの概念をエネルギーの異なる2準位の量⼦系へと拡張したもので、その例として電⼦スピンが該当する。
しかし、量⼦ビットとして利⽤するにあたり必要とされる、五重項状態の量⼦コヒーレンスを室温で観測した例はなかった。量子コヒーレンスは、量⼦⼒学に特有の性質の一つで、複数の状態が混ざり合った重ね合わせ状態のことを指す。
今回、九州⼤学と神⼾⼤学の研究グループは、室温での五重項状態の量⼦コヒーレンス観測に初めて成功した。量⼦コヒーレンスの観測は量⼦センシングへの応⽤上⾮常に重要。この研究ではMOF(金属錯体骨格)中に⾊素 を⾼密度に集積化することにより、五重項状態を発⽣させ、かつ室温下でもその量⼦コヒーレンスを100ns(ナノ秒)以上維持できることを⾒出した。
今回の研究成果により、複数の電⼦スピンから成る量⼦ビットを室温で⽣成するための要件が明らかとなり、今後のMOFの多孔性を活かした超⾼感度な 量⼦センシングの実現が期待される。
この研究は、九州⼤⼤学院⼯学研究院の⼭内朗⽣⼤学院⽣、⽥中健太郎⼤学院⽣(当時)、楊井伸浩准教授、同⼤学⼤学院理学研究院の宮⽥潔志准教授、神⼾⼤分⼦フォトサイエンス研究センターの婦⽊正明特命助⼿、⼩堀康博教授らの研究グループが、九⼤⼤学院⼯学研究院の君塚信夫教授、同⼤学⼤学院理学研究院の恩⽥健教授、神⼾⼤⼈間発達環境学研究科の佐藤春実教授らと共同して行った。