物質・材料研究機構(NIMS)とフィンランドのユヴァスキュラ大学の国際共同研究グループは、電気化学反応における電子と水素イオンの移動機構が電解液中の陽イオンによって制御できることを初めて明らかにした。
電気化学反応は一般に電極表面と電解液の界面で進行するため、電極と電解液双方の構造や特性の理解が、反応速度の制御や反応機構の解明のために重要だ。燃料電池に重要な酸素還元反応では、電解液中のイオンの種類や濃度が反応速度に影響すると知られているが、反応経路や反応の選択性への影響は明らかにされていなかった。
国際共同研究チームは、アルカリ性電解液中における白金電極上の酸素還元反応において、電子と水素イオンの移動機構が電解液中の陽イオンによって選択的に変わることを初めて明らかにした。
白金電極上の酸素還元反応では、酸素分子が分子骨格を大きく変えるか否かによって「内圏型反応」と「外圏型反応」の2種類の反応経路が存在する。内圏型反応では酸素分子が電極表面に吸着し、分子結合を切って電極と電子を授受。外圏型反応では電極表面から少し離れた位置で酸素分子への電子移動が起こる。
精密電気化学測定と第1原理計算を用いて詳細な分析を行った結果、リチウムイオンを含む電解液は外圏型反応が生じやすい一方で、カリウムイオンやナトリウムイオンを含む電解液は、従来の報告通り内圏型反応が発生しやすいことが明らかになった。
NIMSは「これまで電極材料が担っていた反応機構の制御を電解液が行うことでより安価な電極材料の利用を可能にし、さらに電極との相乗効果によってこれまで達成できなかった反応効率や選択性の向上が期待できる」としている。