■ポイント□
〇岐阜県美濃加茂市の約1900万年前の地層から、オベチェだけから構成される化石林を発見
〇現生のオベチェはアフリカ中部だけに生育するアオイ科の熱帯性樹木
〇この発見は地球温暖化後の植生変化を予想する重要な手がかりとなる
北海道大学大学院理学研究院の山田敏弘教授らの研究グループは、岐阜県美濃加茂市の木曽川河床に露出する約1900万年前の地層中に見られる約130本の化石樹幹を調査し、それらがすべてオベチェ(アオイ科)の仲間の絶滅種ワタリアであることを発見した。また、この化石林の林床には、1種類の葉ウリノキモドキが降り積もっていた。つまり、この化石林は、一種類の樹木だけで構成される森林である「純林」で、化石樹幹と葉化石が同じ樹木に由来することは確実だという。
現在の植物が落葉することから想像できるように、植物の器官は化石になる前に、互いに別れ別れになる。このため、植物全体が化石として保存されることは極めて稀で、特に大きな樹木全体が化石として見つかることは滅多にない。その結果、葉や幹に別々の学名が与えられるのが普通。
一方、化石を含む植物の類縁を推定するためには、さまざまな器官の特徴を総合的に観察することが必須。ウリノキモドキは約1900-1000 万年前の北半球に普遍的にみられるものだったが、その類縁は分かっていなかった。今回、幹と葉が〝繋がった〟ことにより、ウリノキモドキがオベチェの仲間のものであることが初めて解明された。
現生のオベチェはアフリカ中央部だけに分布する熱帯性の高木。ウリノキモドキが見つかる時代は、地球の平均気温が最大で4度上昇した温暖期にあたる。今回の発見により、この温暖期に高い気温を好む樹木が世界中に拡大したことが示された。
一方、この温暖期の後には、急速に寒冷化が進行する。ウリノキモドキは、寒冷化の開始後も生育していましたが、ついに寒さに耐えきれなくなり、約650万年前に絶滅した。このような植生史は、植物が温度変化に合わせて分布を変えることを示す一方、ある程度の環境変化に耐える強かさを持っていることを暗示している。