名古屋大学大学院医学系研究科統合生理学分野の八尋貴樹大学院生、片岡直也特任講師、中村和弘教授の研究グループは、暑さ・寒さから逃げて快適な温度環境を探す体温調節行動を起こす脳の神経路を明らかにした。
人間などの動物は、生命活動を行う上で適切な体温を保つため、体温調節行動を行う。カメの甲羅干しや、人間が夏に薄着をして冷房を使い、冬に厚着をして暖房を使うのも体温調節行動。普段当たり前に行う体温調節行動だが、この行動を起こす脳の神経メカニズムは謎だった。2017年に研究グループは、体温調節行動を起こすために外側腕傍核(がいそくわんぼうかく)(※)という脳の領域が必要であることを報告した。今回、同グループは、外側腕傍核を介した神経伝達がどのようにして体温調節行動を起こすのかを、ラットを用いて解析した。
※ 外側腕傍核:脳の中脳と延髄の間に位置する、橋(きょう)と呼ばれる領域に存在する神経核
その結果、皮膚の温度センサーで感知した温度感覚の情報を、外側腕傍核の異なる二つの神経細胞群が前脳の異なる領域へ伝達し、それぞれ、暑さから逃げる行動と寒さから逃げる行動を起こすことがわかった。
体温調節行動は暑さや寒さによる不快感(不快情動)によって駆動されると考えられ、今回発見した神経伝達路は、温度感覚による不快情動の形成に関わる可能性が示された。この研究で得られた知見は、暑さ・寒さに対して適切に不快情動を形成することができず、熱中症や低体温症に陥ってしまう原因を解明する糸口となるものとなる。
また、外側腕傍核のこれら二つの神経細胞群はともに、寒冷刺激に応じて褐色脂肪組織で熱を産生する反応にも必要であることがわかった。この知見は、体温や代謝を適切に調節して健康を保つ脳の神経回路メカニズムの新たな理解を促すもの。この研究の発展によって、糖尿病などを含む肥満症を超早期の未病段階で検出する技術や、脂肪代謝を促進する新たな肥満予防・治療の技術開発などにつながる可能性がある。