東京大学の佐伯峻生大学院生らの研究チームは、高速度撮影技術が抱えていたナノ秒時間領域における計測時間スケールのギャップを埋める撮影法の開発に成功した。細胞を伝わる衝撃波ダイナミクスの直接的な観察に世界で初めて成功している。
電気的な撮影法と光学的な撮影法のちょうど間に存在するナノ秒の時間領域はどちらの方法でも撮影が難しい時間スケールであり、撮影像の画質や露光時間など、高速度撮影に重要な要素を犠牲にせざるを得ない状況にあった。
このナノ秒撮影問題を解決するため研究では、超短パルスからナノ秒間隔の光パルス列を生成する新しい光学システムである「Spectrum Circuit」を開発。超高速撮影法STAMPへ適用することで、光学的な撮影法をナノ秒の時間領域まで拡張した。
Spectrum Circuitでは、精密に調整された4枚のミラーで構成される「光のサーキット」を超短パルスが周回し、1周ごとに光パルスが部分的に取り出される仕組みになっている。
自由空間中を光が伝播するので、従来のナノ秒パルス伸長法である光ファイバーを用いた方法で発生するような望ましくない非線形光学効果を避けることが可能であり、また周回長の変更により光パルス列の間隔を自在に調整することができる。
研究チームはナノ秒撮影法を実証するため、音波と同様に圧力変動を伴う非線形な波である衝撃波が、がん細胞を伝わる様子をこの手法にて超高速撮影。1.5ナノのフレーム間隔に対して44ピコという極めて短い露光時間で撮影した。
研究グループは「本技術は旧来の高速度撮影の役割である未知の高速度現象の学理解明や動的プロセスの解析に加え、機械学習用データベースの高速な構築のための重要なツールとして貢献する」と説明している。