東京慈恵会医科大学の吉田昌弘助教は、ロンドン大学などと共同でヒト胎児の肺における免疫細胞が器官形成とともに成熟するプロセスを解析。組織幹細胞との相互作用で気道形成を誘導するメカニズムを明らかにした。
気道の免疫システムが、ヒト胎児の肺においてどのように発生し、また気道や肺といった臓器の発生や再生に関与しているかは明らかになっていなかった。
そこで研究チームは最先端のシングルセル・マルチオミクス解析などの手法を用いて、胎生 5~22週齢のヒト胎児の肺における免疫細胞を詳細に分析。さらにヒト胎児の肺から分離した組織幹細胞からオルガノイド培養を構築し、免疫細胞から分泌されるサイトカイン
が気道上皮細胞への分化を誘導するメカニズムを解明した。
免疫細胞は胎生5週には肺内に存在し、特に自然免疫細胞が早期に肺に流入することが分かった。このうち、自然リンパ球やナチュラルキラー細胞、マクロファージは胎児肺において活発に増殖しており、他の臓器に比較してより豊富に存在することが判明している。
また、獲得免疫を担うB細胞リンパ球の成熟は、従来胎児の主要な造血器官である骨髄を中心に行われると考えられていた。だが、研究では胎児の肺においてB細胞への分化の過程にある全ての細胞種が同定された。つまり、B細胞の成熟が胎児の肺内で局所的に起こることが示唆されている。
ほかにも、T細胞リンパ球の成熟は肺内では生じず、胸腺などの器官で成熟した後に肺内に流入することが確認した。
研究グループは「研究成果は、ヒトの肺の免疫細胞の起源を世界で初めて1細胞レベル・分子レベルで詳細に解析したものであり、肺発生の過程において免疫細胞と上皮細胞との相互作用がこれまでに考えられていたよりもはるかに早期から行われ、肺の発育に重要な役割を果たしていることが明らかになった」とコメントした。