広島大学の奥村美紗子准教授らの研究グループは、明治大学との共同研究で線虫を食べる線虫として知られる「プリスティオンクス・パシフィクス」の捕食性の進化に、たんぱく質分解酵素が重要な役割を果たしたことを突き止めた。これまで動物が新しい食物を食べる進化の過程を明らかにした例はなく、その謎の一端を示したという意味で画期的発見だ。
プリスティオンクスは、線虫を食べない虫から進化したと考えられており、捕食性を獲得する過程で他の線虫に噛みつくための動く「歯」を獲得したとされる。だが、歯がどのようにして獲得され、虫を捕まえて食べるようになったについてはほとんど知られていなかった。
研究グループは独自に開発した実験方法を用いて順遺伝学的スクリーニングを行った。5000系統を超える変異体の中から5系統の「他の線虫を捕食できない」系統を見つけている。
うち1系統はたんぱく質分解酵素アスタシンの1つをコードする「nas-6遺伝子」に変異を持っていることが判明。ゲノム編集技術を用いて作出したnas-6の機能を完全に破壊した線虫は、他の線虫を捕食できなくなることが分かった。
さらに電子顕微鏡を用いて線虫の口の形を詳しく調べると、歯の微細な構造に欠陥があることを見いだした。次にプリスティオンクスと非捕食性のモデル線虫「カエノラブディティス・エレガンス」のnas-6遺伝子を比較した。
その結果、nas-6遺伝子からできるNAS-6たんぱく質の分子機能に違いはないものの、プリスティオンクスだけはNAS-6たんぱく質が働く場所が歯の近くの細胞に変化していることが確認できている。
研究グループは「動物の食性の多様性がどのようにして生まれてきたのかについて実験的に明らかにした例は少なく、本研究成果は線虫を用いてその謎の一端を明らかにしたという意味で画期的である」と述べている。