静岡大学農学部の竹内純准教授の研究グループは、アブシシン酸(ABA)の代謝不活性化機構に着目。ABAを構造改変することにより植物体内で代謝不活性化され難く、かつ太陽照射下でも安定なABAアゴニストを開発した。
ABAの光安定性の低さは、側鎖ジエン酸の共役二重結合および環部のα,β-不飽和カルボニル基に由来する。これまでの研究では、光安定性の向上を目的として側鎖ジエン酸をフェニル酢酸に置換したABAアナログ(BP2A)、及びBP2Aの α,β-不飽和カルボニル基の4‘位ケトンを還元したMe 1’,4‘-trans-diol-BP2Aを創出してきた。しかし、植物体内で代謝不活性化されてしまうという課題は残ったままであった。
ABAは代謝不活性化酵素(CYP707A)によってシクロヘキセノン環上の8‘位メチル基が水酸化された後、異性化して低活性なファゼイン酸へと変換されます。従って、代謝抵抗性を付与するには、シクロヘキセノン環を改変することが有効であると考えました。そこで、BP2Aのシクロヘキセノン環をシアノシクロプロピル基に置換した化合物Me CP2As(3A–ⅽ)を合成した。
シアノシクロプロピル基は共役二重結合を含まないため、期待通り日光照射に対して高い安定性を示した。だが、生物活性はABAの10分の1~30分の1程度に低下した。これは受容体に対する親和性が低下したためだと推測できる。
次に、BP2Aをメチルエステル化した後、8′位メチル基にアセチレンを導入して4′位ケトンを還元したMe 8‘-methylidyne-1’,4′-trans-diol-BP2A(4)、及び Me BP2Aのシクロヘキセノン環にベンゼン環を融合したMe tetralone-BP2A(5)を設計。
また、化合物 5 の 4′位ケトンを還元したMe diol-teralone-BP2A(6)も合成しました。日光照射試験において、化合物4–6はいずれもBP2Aよりも高い光安定性を有していることを確認した。また、シロイヌナズナの種子発芽阻害を指標とした生物活性試験において、化合物5と6はBP2Aよりも強い阻害活性を示した。
さらにin vitro試験の結果から、化合物5/6の活性向上は、植物体内での代謝安定性に由来することが示唆されました。
研究グループは「本研究で開発した化合物5及び6は、農業現場でABAを使用する際に障害となっていたABAの弱点を克服する1つの方法だと思う」とし「今後は、シロイヌナズナ以外の農作物に対する効果や薬物動態を追究することで、ABAアナログの農業利用へと繋がることが期待される」とコメントしている。