京都大学の今中雄一教授らの研究グループは脳卒中患者の病気の結果と費用を長期的に推定するモデルを作成した。得られた知見は医療の質の担保と適正配置のための現実に即した医療価格調整に発展する可能性がある。研究グループの一員である江頭柊平さんは苦しい時間を伸ばして負担を与えているだけでないかという葛藤が研究の出発点であったという。
広範脳梗塞患者は治療しても後遺症が残る可能性が高く、血管内治療の費用は安くない。長期的に見た場合に血管内治療が患者にどのくらいの利益をもたらすのか、それが社会にどの程度の負担となるかはほとんど分かっていなかった。
研究では患者が脳卒中を発症してから寿命を迎えるまでの人生を考えたとき、各時点での健康状態や費用の累積を現実に即した形で推定するモデルを作成した。
結果として広範脳梗塞に対する血管内治療は、累積追加費用が407万円、累積質調整生存年数の増分が0.84でその比は483万円/質調整生存年数であり費用対効果に優れるといった数値になった。
一方で、脳梗塞の大きさを示す虚血スコア「ASPECTS」を用いて分析すると、ASPECTS3以下という広範脳梗塞の中でも虚血領域が大きい患者は、1質調整生存年数を得るのに必要な追加費用が1940万円と大きくなり費用対効果に優れない可能性も示された。
グループの一員で医療者でもある江頭は「治療しても後遺症が残る患者さんを見ていて、つらい時間をむやみに伸ばしていないか、医療費を増やして未来の患者さんに負担を与えていないかという疑問が本研究の出発点であった」と話す。
そして「この研究は主に日本の支払者の立場で行ったが、現実に即したセッティングや費用でモデルを作ったので、研究者や政策決定者はもちろん同じ悩みを持つ現場の医療者にも手に取られる論文になってほしい」と思いを込めた。