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イネ深水抵抗性に関わるゲノム領域を特定 農薬削減などに貢献(農工大)

東京農工大学の磐佐まりな氏らの研究グループは、除草剤を減らして水田の雑草発生を抑制するための深水管理条件におけるイネの旺盛な生育に関わるゲノム領域を特定することに成功した。特定されたゲノム領域を品種改良に利用することで、除草剤を減らし環境負荷を軽減した持続的な農業生産の拡大につながることが期待される。

これまでの研究により、冠水に適応して丈が伸びた「浮イネ」の急激な伸長を引き起こす複数の遺伝子が明らかにされてきた。だが、抑草を目的とした水位10~20センチメートルほどの深水管理下におけるイネの生育初期の深水抵抗性に関する生理、遺伝学的研究はほとんど行われていなかった。

日本国内から収集した温帯ジャポニカイネ品種165品種を用いて、20センチメートルの深水条件におけるイネ生育の品種間差異を明らかにした。さらに、深水抵抗性に関わるゲノム領域とその中に存在すると考えられる原因遺伝子の探索を行った。

温帯ジャポニカ165品種における深水処理終了後のバイオマス量を比較したところ、深水によりほとんど枯死してしまった品種が存在した。一方で、わずかなストレスしか受けていない品種も存在。幅広い多様性が確認された。

また、関連解析の結果、深水条件のバイオマス量は生育初期の草丈と茎数に強い関連性があることが分かった。生育初期の草丈の高さは、植物体の完全な水没を回避し、正常なガス交換および代謝活動の維持に重要。茎数の多さは水面上に葉を多く展開し、活発な光合成を行うために大切であると考えられる。草丈と茎数との相関関係は弱いことから、これら2つの性質は独立して向上できることが示唆されている。

深水条件の草丈と茎数を制御するゲノム領域を明らかにするため、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施。その結果、草丈に関わる主要なゲノム領域を第3染色体上に、茎数に関わる領域を第4染色体上に特定した。

これらのゲノム領域では、日本晴と異なる「変異型」のDNA配列を持つ品種で草丈が大きく、茎数が多くなることが判明した。草丈に関わる第3染色体上のゲノム領域には、植物の茎を伸長させる働きを持つ植物ホルモン「ジベレリン」の生合成に関わる遺伝子 OsGA20ox1が含まれ、草丈が大きい品種はOsGA20ox1の相対発現量がより高いことから、有力な候補遺伝子と考えられた。

また、茎数に関わる第4染色体上のゲノム領域には、葉の形態形成や穂数に関わる遺伝子 NAL1が含まれることが確認されている。NAL1の遺伝子コード領域上の一塩基置換がアミノ酸変異を引き起こしていることから、これが茎数の制御に関連する有力な候補遺伝子と考えられた。

深水条件の草丈および茎数に関わる第3、4染色体上のゲノム領域がどちらも変異型のDNA配列である品種は、どちらも日本晴と同じ「参照型」のDNA配列である品種に比べて、深水条件下のバイオマス量が高いことが分かった。

研究グループは「これらゲノム領域を組み合わせることで、深水条件下でのイネの生育を高め、深水抵抗性を強化できる」としている。

20cm の深水管理中の生育初期のイネの様子(深水処理 17 日後)。
深水により一部の個体が黄化、枯死し茎数が減少してしまったイ
ネ(黄色破線手前)と、ストレスをほとんど受けず旺盛に生育して
いるイネ(黄色破線奥)の様子