熊本大学の戸田敬教授らの研究グループは、バイカル湖でのフィールド調査を10年間実施。氷に覆われた湖で繁殖する植物プランクトンが、凍結防止のために硫黄原子を含む双性イオン(DMSP)をつくり出していることを発見した。
双性イオンは、海洋プランクトンが塩水の浸透圧に対応するためにつくる化合物として知られており、その分解物は磯の香りの成分として私たちにも馴染み深いものだ。
研究グループは2012年から3月と4月にバイカル湖に8回にわたり遠征し、植物プランクトンの繁殖の探索とDMSPやそれに関わる化学物質の分析を実施した。
それによれば、バイカル湖の初春に繁殖する「渦鞭毛藻」にはDMSPを生成する能力があり、凍結防止のためにこれを利用していることが判明。湖にわずかしかない硫酸イオンの硫黄原子を利用してDMSPに変換しており、その効率は海水の代表値と比べると2000倍に上った。
浸透圧調節の必要がなく硫黄原子を供給する硫酸イオンが海水の500分の1しかないバイカル湖で、この化合物が検出されてその濃度が海水以上になるのは驚くべきことだという。
研究グループは「化学、生物学、陸水学、海洋学、雪氷学など広い科学分野と関連し、多様な発展が期待される」としている。