熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)の滝澤仁特別招聘教授らの研究グループは、中国の南方医科大学などとの共同研究で、ヒト腸内細菌の一種「アッカーマンシア・ムシニフィラ」の体内流入がToll様受容体及び生理活性物質「IL-1」を介して、ひ臓における髄外造血を引き起こすことを発見した。
炎症性腸疾患では腸管上皮のバリア機能が低下することにより腸内細菌が体内に侵入すると考えられるが、これが髄外造血や関節炎の原因となる免疫の異常を引き起こすかどうかはこれまで明らかになっていなかった。
アッカーマンシアを注射したマウスを観察すると、注射後2週間経過した時点でひ腫が認められた。それにより、ひ臓内に造血幹細胞などの未熟な造血細胞が増殖している髄外造血が起こっていることが分かった。また、この現象はほかの腸内細菌を使った実験では起こらなかったため、アッカーマンシア特有の現象であることが判明している。
さらにToll様受容体という病原体を感知して免疫をつかさどる分子や、炎症反応に関与するIL-1を欠損したマウスでは、アッカーマンシア注射によるひ腫の程度が軽くなったことから、アッカーマンシアによる髄外造血はToll様受容体及びIL-1を介して起こることが確認された。
加えて、IL-1は脾臓の成熟血液細胞から分泌され、これが骨髄から脾臓に移動した造血幹細胞などの未熟な造血細胞の増殖を刺激していることが分かっている。
アッカーマンシアを腹腔内注射すると早期に骨髄から造血幹細胞や未熟な造血細胞(造血前駆細胞)がひ臓に移動し、成熟血液細胞からIL-1が分泌。このIL-1がひ臓に移動した造血幹細胞や前駆細胞に存在する受容体に結合することで、これらの細胞の増殖を刺激し、約2週間後にひ腫を形成するに至るという。
特定の腸内細菌が体内に侵入することにより免疫反応を介した髄外造血が起こることが分かった。研究グループは「この研究の成果は、炎症性腸疾患患者で併発する関節炎や自己免疫疾患の発症に腸内細菌が関与している可能性を示唆しており、アッカーマンシアの除菌などにより、これらの疾患の新たな予防法や治療法に繋がることが期待される」とコメントしている。