東京大学の菊池潔教授らの研究グループは4日、ハゼの一種「アゴハゼ」の種内系統の1 つが、絶滅した系統「ゴースト系統」との交雑により誕生した系統であることを示した。また、絶滅系統の生き残ったゲノム領域や失われてしまったゲノム領域の特徴を解明した。
手元に存在しないゴースト系統の研究をすることは難しく、由来するゲノム領域を特定するどころか本当にゴースト系統との交雑があったかを確かめることさえ一苦労だ。こうした困難ゆえに、絶滅系統由来のゲノムの分布についてはこれまでほとんど研究されてこなかった。
研究では、アゴハゼに着目してこの課題に挑んだ。この種には過去の日本海隔離により誕生した日本海系統と太平洋系統、そしてこれら2系統の交雑で誕生した可能性がある東シナ海系統の3つの種内系統が発見されている。東シナ海系統はゴースト系統に由来すると疑われていた。
分布を調査して進化シナリオのシミュレーションを行った結果、「太平洋系統から古くに分岐したゴースト系統が、日本海系統から分岐した系統にわずかに遺伝子浸透することで、東シナ海系統が誕生した」というシナリオが強く支持された。
ゴースト系統から遺伝子浸透した領域を調べることは容易でないが、フォワードシミュレーションに基づく検証により、研究ではこれが可能であることを示した。遺伝子浸透ランドスケープの特徴を徹底的に調べた結果、ゴースト系統が遺伝子浸透できなかった領域は、遺伝子密度が高く、組み換え率が低いという特徴を示した。
これは現存生物間の交雑ゲノムでも良く知られた特徴であり、機能的に重要な領域では絶滅系統のゲノムが排除されたことを示唆する。一方で、ゴースト系統が遺伝子浸透できた領域にはリピート配列が多いことを発見した。
これはいままでの交雑ゲノム研究でもあまり知られていなかったが、先行研究のデータを再解析したところ、ほかの現存生物の交雑ゲノムでも同様の特徴が確認された。
研究グループは「複数の交雑ゲノムの遺伝子浸透ランドスケープを同じ枠組みで比較することで、交雑ゲノムの形成過程における時空を超えた一般則を調べることができる」と説明している。