横浜市立大学附属病院 化学療法センター 堀田信之センター長と慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 森口翔共同研究員の共同研究グループは、厚生労働省の死亡統計データを用いて、2012年7月から10年間の自殺データに関して解析を行い、10-24歳の女児・女性に関して顕著に自殺数が増加していることを確認した。10-14、15-19、20-24歳のいずれの年齢階層でも女性のみ顕著に自殺が増加したことが明らかとなった。さらに、非雇用年齢の10代前半でも女性のみ自殺が増加しており、本人の就労経済状況以外の要因が想定される。この研究成果は、英文医学誌「Lancet Psychiatry」に掲載された。
2020年に新型コロナ禍が始まり、女性や若者の自殺者数が増加傾向にあることが社会的に懸念されている。研究グループは昨年3月に、新型コロナ禍による自殺の増加について若年女性で特に顕著であるという研究結果の論文を発表した。その要因として、20代~30代の女性で顕著に自殺が増加しているのは、社会的基盤が弱い20代~30代女性が失業等による経済的影響を受けやすいためではないかと推察していた。
研究グループでは、厚労省から提供された死因別死亡数のデータを使用し、2012年7月から2022年6月までの10年間のデータを解析した。これは死亡診断書に基づくデータベースで、日本国内の全ての死亡者をカバーしている。
男女別に10〜14歳、15〜19歳、20〜24歳の三つの年齢カテゴリーごとに、6か月ごとの自殺者数をカウントした。
対象期間の10年間で、男児・男性9428人、女児・女性3835人の死因が自殺と報告されている。男性は、パンデミック前後で有意な変化は観察されなかったが、女性の自殺死亡はパンデミック時代に増加し、すべての年齢カテゴリーで統計的有意性が観察された。
この研究で、就業年齢以下である10代前半でも女児・女性において自殺が増加していることが確認できたことから、女児・女性の自殺増加は、本人の失業以外の理由によることが想定される。
一般に女性は自殺企図(完遂しない自殺)が多く、男性は(完遂した)自殺が女性の 2 倍多いなど、自殺に関連する男女差が知られているが、周囲の人との関係性を重んじる女児・女性の方が、コロナ禍により他人との接触が減少したことにより精神的影響を受けている可能性があると推察される。
また、女児・女性は家庭内暴力・虐待の対象になりやすいことも指摘されており、新型コロナ禍では自宅の滞在期間が長くなったことなどにより、その影響が顕在化した可能性が考えられるという。
ここ数年の自殺者数の増加は社会全体での問題となっており、早急な対策が必要。調査結果を踏まえて、研究グループは、「10代、20代の若者の自殺を予防するためには、感染対策や経済政策などだけではなく、男女で異なるアプローチが新たに必要ではないかと考えられます」としている。