北海道大学の波多俊太郎特任助教らの研究グループは、日本の南極地域観測隊によって1960年代から撮影されてきた航空写真と人工衛星データの解析から、南極・昭和基地近傍の氷河湖における60年間の水量変動を明らかにした。排水量は東京ドーム約60杯分に達したとしている。
研究グループは、日本の南極地域観測隊(南極観測隊)が撮影を継続してきた航空写真に着目。航空写真は、南極観測の始まった1950年代から断続的に南極観測隊の活動の一部と
して国土地理院によって撮影されてきた航空写真を用いた。
研究の結果1962~2021年の期間における解析の結果、神の谷池(南極氷床縁辺に位置する湖)では1969~71年と2017年に突発的に氷河湖の湖面が低下したことが分かった。各イベントで湖氷の表面高度の低下量はそれぞれ66メートルと55メートルに達し、排水量は東京ドーム約60杯分に達している。
これまでの報告と比較したところ、神の谷池の決壊イベントは南極地域の氷河湖決壊としては最大の排水量を伴う決壊イベントであることが明らかになった。また、2つの決壊イベントの間隔は約50年間。南極以外の他地域の氷河湖で発生する氷河湖決壊の周期(毎年~数年に1度)と比べて非常に長いことが分かった。
神の谷池近傍の氷床表面に流出河川は見られず、近傍の他の湖でも決壊イベント前後で大規模な変化は確認されなかった。湖に貯まった水によって、湖をせき止めていた氷(氷ダム)の底面に水路が開き、排水したと考えられる。
また、レーダー衛星画像の観察から、2017年の決壊イベントは4~5月(南極の冬季)に発生したことが明らかとなりました。当該発生時期には気温は常に氷点下であり、降雨や強い降雪は確認されていないことから、湖への突発的な水の供給は考えられない。
したがって、冬季の氷河湖決壊の発生は氷河底面からの継続的な(あるいは持続的な)水の供給を示している可能性があり、この地域の氷床底面に活発な水文環境の存在を示唆している。
研究チームは「神の谷池における今後の決壊洪水の有無や周期性、決壊メカニズムについて詳しく理解するために、詳細な氷床底面地形測量や南極における氷床縁辺湖の分布についてさらなる調査の継続が重要」と指摘している。